クリエイティブディレクター・ライフスタイリストとして活躍する大田由香梨さんは、“モノ消費”が活発に行われていた2000年代後半、いち早く「食」「住」も「衣」の延長線上にあると感じ、ライフスタイリストとして商品を通して得られる豊かさに焦点を当て、消費活動のこれからを提案してきた。前編では大田さんが衣・食の事業を手がけるなかで感じた苦労や気づきを語っていただいた。後編の記事では、自身が携わった古民家改修プロジェクトを経て今考える「美しい暮らし」のあり方を聞く。
前編の記事はこちら→「見て見ぬふりはできない」ライフスタイリストが「衣食」の現場で知った違和感とは
仕事する環境、思考を生み出す場所もすべて「住」空間
現在、大田さんは東京と千葉の二拠点で生活を送っている。東京の自宅は、築50年以上のヴィンテージマンションで、ときおり撮影スタジオとして貸し出すこともあるという。千葉にいる時はなんと、エアストリーム(キャンピングカー)での生活を送っているそうだ。そんな大田さんにとって、「住」とはいったい何か?

「『住』というと、みなさんはきっと家のことを想像されることが多いかもしれませんが、私の場合は、生活空間すべてを『住』と捉えています。寝食をする家はもちろん、人と仕事をする環境も、自分の思考を作り出す場所もすべて暮らしの住空間だと思っていて、極端な話をすれば寝る場所としての住まいは、身の安全が確保できて安心して眠れる場所があればそれだけで満足なんです。家は『一生に一度きりの買い物』と表現されることも多いですが、『絶対にこの家じゃなきゃ』という感覚はないですね。ライフステージに合わせて住環境を変えていくというのが、私には自然な流れのような気がしています。
東京の家にはヴィンテージの家具を置いているんですが、いわゆる“グッドデザイン”“グッドクオリティ”のものは、自分の世代で終わり、とはならない。ヴィンテージの家具に愛着はありますが、執着があるわけではなく、いつかは誰かに引き継がれていくだろうと長い時間軸で捉えています」