2022年の厚生労働省の統計調査によると、2020年末時点で医師は33万9623人と過去最多を更新したという。また、男女比は男性が77%、女性は23%だが、医療機関に勤務する女性医師は7万3822人で初めて7万人を超えた。医師全体の人数が増加している一方、2004年に約1万8000人いた外科医は2020年には約1万500人までに激減。2004年段階で43歳だった外科医の平均年齢は、2020年には50歳にまで上がっている。
そんな深刻な状況を改善するためには、男性はもちろん、女性の医師も外科を選ぶ選択がしやすい環境が必要だと活動しているのが、大阪医科薬科大学の一般・消化器外科の河野恵美子さんだ。ジャーナリストの浜田敬子さんが河野さんに取材し、外科医の現状を伝える後編。
前編では、河野さんがその活動をするに至るまでのご自身の仕事の状況をお伝えした。河野さんは35歳の時に妊娠、つわりがひどい中、「育休」とすると補充の医師が入ってこず、それによって患者の方に迷惑がかかってしまうと退職を決意したのだ。その後、子育て支援に力を入れている病院に採用されたものの、そこに待っていたのは仕事から干される現状だった。
それでも医師であることをやめなかったのはなぜか。そして、問題点を改善するために必要なこととは。
「子育て女性外科医はそんなに悪ですか」
河野さんが何とか医師を続けられたのは、「病院に来なくてもいいから、とにかくやめたらあかん」と、毎日朝8時に電話をくれた当時の部長のおかげだった。その部長に根負けする形で踏みとどまった。
もう一つ、河野さんが退職しなかった理由は、後輩たちのことを思ったからだ。
ある時、妊娠した後輩の女性医師について、上司の男性医師はこう言い放った。
「彼女は僕との約束を破った。研修医の間に百歩譲って結婚は許すといったけど、子どもは作るなって言ったのに」
結局、その女性医師は退職を選んだ。出身大学の外科医局に相談に行ったが、子どもがいる人が働ける病院はないと言われたという。
別の女性医師は、「子育て中の女性医師はそんなに悪ですか?」と河野さんの前でポロポロと涙を流し、退職していった。

「彼女たちの姿を見て、本当に悔しくて。外科医を続けたいのに続けられない。自分も守ってあげられなかった。こういう状況を変えたいと思ったんです」
まず自身が仕事で業績をあげなければ、改革を訴えても聞き入れてもらえないだろうと猛烈に働いた。起床は朝4時。8時前に出勤して、19時まで働いて、一度帰宅して子どもに食事をさせて寝かしつけてから、また病院に戻った。
2008年からは、外科で女性医師が働き続けられるよう改革を訴える活動も始めた。