いまもなお、誹謗中傷に苦しんで自ら命を絶ってしまうような痛ましい事件が続く。
そしてSNSを駆使して人を騙し、自分は安全な場所で犯罪を操るような事件も起こる。
時として誰かに操られるように、感情がマイナスの場所に引っ張られてしまうようなこともある。
人は脳があるからこそ行動する。
ではそういうマイナスの行動は、脳がどのような動きをして起こりうるのだろう。
「脳の暗部」を分析し、明確に伝えるのが、脳科学者・中野信子さんの『脳の闇』だ。
本書より特別に抜粋してお届けする第1回は、本書第5章「ポジティブとネガティブのあいだ」より「ポジティブ思考」の闇について。
その前編では、中野さんが「もう一度会えたら」と思う人のことをお伝えする。
もう一度会えたら
昔、同級生だった男の子から手紙をもらったことがあった。その手紙には何を書くでもなく、私と、答えの出ない問いにああでもないこうでもないと思案を巡らし、調べてはその答えらしき議論をあれこれと吟味して、飽きるまで一緒に勉強した日が懐かしい、いま思えばその頃が一番楽しかったなあ、と書いてあった。
彼は今どうしているだろう。私はまだ、あの頃と同じように学ぶ喜びを追って、飽きもせず大学院に通っている。彼も、私のように、学ぶ喜びを味わい続ける人生を、楽しんでいるといいなと思う。

私に帰りたい日があるかどうか、その手紙をもらってから、しばしば思い返して考えてみることがある。記憶を保ったままもう一度やり直せるなら、やり直してみたい気持ちがないではない。けれど、その時はその時で必死であったことも確かで、もう一度同じように戦ってみろと言われたら、それはそれでしんどいなという気もする。
ただ、謝りたい人や、死んでしまって会えない人にもう一度会いたいとは思う。私がもうすこし手を伸ばすことが出来ていたら、あの人は自死を選ばずに済んだかもしれない。なぜ何も出来なかったんだろうと、きっとこうやって一生何度も思い出すのだろうと思う。もう25年も経つのに、まだ私はあの日に帰りたい。彼女の隣に座って、ただ、あなたが悩んで葛藤している姿を素敵だと思う、あなたを尊敬していますと、それを伝えられるだけで良かったんじゃないかと今でも思う。
