李白の作品の根底にあるもの
李白は詩人としては唐代随一の令名がありますが、文章(散文)のほうは、残されている作品も多くないし、文章家として特にもてはやされることはありません。
しかしこの「春の夜に桃李の園に宴するの序」という文章だけは有名で、特に日本では、『古文真宝(こぶんしんぽう)』という模範詩文集が鎌倉時代あたりから流行しましたが、その中にみえていたのでひろく読まれておりました。芭蕉もおそらくこの文章を『古文真宝』で読んでいただろうと思われます。いずれにせよ、調子の高い名文であることはまちがいなく、芭蕉の頭に焼きついていたのでしょう。
ただしこの「浮生は夢のごとし、歓びを為すこと幾何ぞ」というテーマは、李白のこの文章だけでなく、李白の詩のいたるところに鳴りひびきます。詩文を問わず、李白の文学の根底にいつも流れている基音(ハウプトトーン)といってもよいでしょう。
李白を取り入れたクラシック音楽
近年クラシック音楽のほうで、グスタフ・マーラー(G. Mahler) の人気がとみにあがっているそうですが、その代表作のひとつ「大地の歌」(Das Lied von der Erde)は、唐詩を下敷きにして作られたといわれております。もとよりマーラーに唐詩が読めるはずはありませんが、翻訳詩集――ハンス・ベトゲ (H. Bethge)という人の『中国の笛』と題する唐詩の翻訳詩集を読んで感激し、この大作にとりかかったのだそうです。