2023.02.21
# ライフ

「湯道」を提唱する”入浴の達人”小山薫堂さんが全国から選んだ「心まで温まる銭湯と共同浴場」

前編記事『「毎日入る家のお風呂も『道』になる」放送作家・小山薫堂さんが語り尽くす「『湯道』の極意」』に続き、小山さんがお勧めする「お湯」を厳選して紹介する

日本独特の「入浴」を文化ととらえ、その精神と様式を突き詰める「湯道」の初代家元を名乗る小山薫堂さん。自ら全国の湯を歩いてまとめている「湯の記」から、「心まで温まる湯」を紹介してもらった。「湯道」の精神「湯道温心」を表すもので、あえて名湯とよばれる温泉をはずし、銭湯と共同浴場に絞った。「どれも捨てがたい」と悩みながら選んだ4つの湯、その魅力とは。

 

中乃湯(沖縄市)

沖縄の言葉で銭湯は「ゆーふるやー」。90歳を超えたおばあちゃん(仲村シゲさん)が一人で切り盛りしている、日本最南端で、今や沖縄に唯一残る銭湯です。楽しみはシゲさんをはじめ常連の皆さんとの「ゆんたく」(おしゃべり)。近所で民宿をやっている常連さんが三線(蛇皮線)を手にやってきて、湯上りに奏でる。シゲさんは暖簾の前のベンチにいつも座っていて、一緒に歌い出す。次に来たお客さんは歌いながらお風呂に入っていく。たまに浴室から「湯がぬるいよ」と声がかかると、シゲさんは「よいしょっ」と立ちあがって釜場へ向かう。そんな光景がたまらなくいい。

中乃湯中乃湯 ©Alex Mouton

シゲさんは昭和39(1964)年に夫婦で中乃湯を開いたのだけど、ご主人が急逝してしまい、それ以来50年近く一人で銭湯を守り続けてきた。湯は300メートルの地下からくみ上げた温泉を沸かして、入浴剤で少し色を付ける。邪道などではなく、この湯の柔らかさがシゲさんの優しさです。

お客さんは一日でせいぜい数十人。それでも続けているのは友達みたいなお客さんに囲まれているから。「どこでも好きなところに行っていい」と言われたら、ここに僕は行きますね。

シゲさんは「100歳までこの湯を守る」と言っています。ここはまさに人生を磨いてくれえる銭湯。これから10年、年に一度は浸かりに行こうと思っています。

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