2月3日に公開されるフランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』は、昨年2022年に日本で公開された早川千絵監督作『PLAN75』と同じく「安楽死」をテーマにしている。『PLAN75』は政府が75歳以上の老人に安楽死の選択を与えて、誰かに迷惑をかけてしまう高齢者は安楽死を選ぶべきだという社会の同調圧力を描いたディストピア映画だが、『すべてうまくいきますように』は安楽死に向き合った父と娘の実話を映画化したものである。

現在、日本と同様にフランスには安楽死の制度がなく、安楽死を望むフランス人は隣国のスイスへ行く。昨年9月に91歳だったフランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督がスイスで安楽死をしたことを覚えている人も多いだろう。今回、フランソワ・オゾン監督に本作を制作した理由、そして制作するなかで安楽死に対して抱いた率直な思いについて聞いた。

『すべてうまくいきますように』あらすじ
小説家のエマニュエル(ソフィー・マルソー)は、85歳の父アンドレ(アンドレ・デュソリエ)が倒れたという報せを受け、妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)と共に病院へと駆けつける。診断の結果は脳卒中。命に危険はなかったが、身体に麻痺が残り、そのまま入院することになる。美術収集家として成功していた父は、人生でもうやり残したことはないと安楽死を決意し、エマニュエルにその支援を委ねるのだった……。
 

友人が体験した実話を映画化

――本作は、アート収集家である85歳のアンドレ・ベルンエイムさんの実話を、アンドレの娘であり、オゾン監督作品の『まぼろし』『スイミング・プール』などの脚本を監督と共同執筆したエマニュエル・ベルンエイムの視点で描いた小説を原作にしているそうですね。彼女から映画化を打診されたのでしょうか。

エマニュエルを演じているのは、フランスの国民的俳優のソフィー・マルソー/『すべてうまくいきますように』より

オゾン監督:はい。エマニュエルは2017年に癌で亡くなってしまいましたが、生前、本のゲラを送ってくれました。当時はとてもパーソナルな物語のように思えて、私にはどうやって映画化すればよいか分からなかった。結局、アラン・カヴァリエが映画化することになったんですが、エマニュエルが癌にかかってしまい、映画は『Living and Knowing You Are Alive(原題)』というドキュメンタリーになりました。2019年に公開された素晴らしい作品です。

――なぜ、最近になって、エマニュエルさんの小説を映画化しようと思ったのですか?

オゾン監督:エマニュエルの死後、もう一度彼女と一緒にいたいと感じました。それにたぶん、人生経験を積んで彼女の物語をより深く理解できると思ったからかな。また、ソフィー・マルソーとも仕事をしたかったのもあります。直感的にこの企画が彼女にふさわしいと思い、エマニュエルの本をソフィーに送ったら、彼女が気に入ってくれて脚本を書き始めたんです。