2013年10月、日本で“高齢者向け売春クラブ”が摘発され世間を驚かせた。新聞紙の三行広告に「茶飲み友達紹介」と載せて応募してきた男女に10年もの間、売春を仲介していたというのだ。とはいえ、性を売るのは女性で買うのは男性。会員数は約1350人にものぼり、会員の男性は約1000人で最高年齢が88歳、平均年齢は65歳前後。女性の会員は約350人で最高年齢が82歳、平均年齢は60歳前後だったという。

この事件をモチーフにしたフィクション映画『茶飲友達』が2月4日に公開される。本作の監督・脚本・プロデューサーを務めたのは外山文治氏。短編『此の岸のこと』や吉行和子主演『燦燦—さんさん』など、高齢者に向き合った映画を制作してきた彼はなぜ事件から10年経ったいま、映画化に踏み切ったのか――。高齢者の性だけでなく、若者の閉塞感、孤独、貧困、女性の自己決定権、生活保護の課題など日本が抱える問題がギュッと濃縮された本作について、外山監督に話を聞いた。

『茶飲友達』あらすじ
妻に先立たれ孤独に暮らす男、時岡茂雄(渡辺哲)がある日ふと目にしたのは、新聞の三行広告に小さく書かれた「茶飲友達、募集」の文字。その正体は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」だった。運営するのは、代表の佐々木マナ(岡本玲)とごく普通の若者たち。彼らは65歳以上の「ティー・ガールズ」と名付けられたコールガールたちに仕事を斡旋する。会員数が1000人を突破し、すべてが順調かに見えたある日、思いがけない事件が発生した……。
 

高齢者にも恋愛や性がある

――なぜ高齢者の“性”を描いたのですか?

外山監督:高齢者を描いた映画は人生の尊厳や安楽死など壮大なテーマに絞られがちですが、私はもっと人生の身近な視点というか“日常”を題材にしたかったんです。今回、20代から80代までの俳優さんたちとお仕事をしたのですが、高齢者のほうがむしろパワフルでした。個性も様々でエネルギーもたくさんあるのに、高齢者は物分かりのよいお年寄り、誰かのおじいちゃんとおばあちゃん、といった“役割”でしか見られていません。私たちが思う以上に高齢者の一人ひとりが人間的魅力に富んでいるんですよね。

日本性科学会セクシュアリティ研究会の調査(※)によると、70代男性の31%、70代女性の19%が月1回以上のセックスをしているそうですにもかかわらず、高齢者の性はなぜかタブーになっている。現場に来ていた若い俳優さんたちも、「え、セックスっていくつになってもするものなんですか?」と驚いていましたが、いまや薬もありますしね。映画の撮影に使わせてもらった老人ホームのお医者さんは、この企画を読んで「高齢者にも恋愛感情や性があることを理解してほしい」と協力してくれたんです。あの売春クラブの摘発は、高齢者の人間性から目を背ける高齢化社会の象徴のようですよね。

※日本性科学会セクシュアリティ研究会による「中高年セクシュアリティ調査」(2012年)のデータより。
『茶飲友達』より