「異次元の少子化対策」を講じると岸田文雄首相が名言した直後、「育休中のリスキリング」に言及して「少子化対策の意味が分かっていないのでは」「育休とは休みではない」などの声が頻出した。
安心して子どもを産み育てられる国にするにはどうしたらいいのか。
ジャーナリストの島沢優子さんは、外務省が発表した海外在留邦人数調査統計で過去最多となった移住者数の数を見ても、「海外で暮らしたい」と若者たちが移住する「理由」があるという。
自身の20代の娘がオランダで就職する理由を入り口に、日本で子どもを産み育て、そして働きたいと感じる環境はどういうものなのか考察いただいた。
コスタリカに行った娘がオランダへ
私ごとで恐縮だが、娘がオランダへ行くことになった。
一昨年11月の当連載で「Creepy Nutsの言葉に背中押され…大学中退し海外でプロサッカー挑戦を選んだ娘の決断」というタイトルのコラムが掲載されている。そうそう、大学中退してコスタリカに行ったあの子ねと思い出してくださった方もいらっしゃるだろう。
海外でサッカー指導者として働く夢を持っていた彼女は、コスタリカ女子1部リーグで1年弱プレーした。指導者になる前に選手としての経験が必要と考えてのことだった。世界的にハイレベルではないけれど、ほぼ全試合出場しカップ戦の準優勝に貢献した。コロナ禍でクラブが経済的に困窮したため、就労ビザ取得に経費や手間のかかる外国人である娘はピンチに陥った。他国への移籍も探ってみたらしいが先行きが見えず、昨秋帰国した。
その後。昼夜アルバイトをしながら準備をし、先月オランダの日系企業で内定をもらった。オランダはサッカーの指導者レベルも高く、英語での指導者ライセンス取得が可能なのだ。コーチの勉強だから留学じゃないの?なんでまた就職したの?とママ友たちは不思議そうだったが、オランダに住み同国のサッカークラブで様々な仕事をしてきた人をはじめ、ドイツ、英国など欧州各国で指導者の礎を築いた人たちの話を聞いたうえで辿り着いた答えだった。
オランダで「就職する」意味
まずは経済的な基盤をつくったほうがいいこと。
ライセンス取得を焦るのではなく、その国を知る、人を知る、サッカーを知ること。
言葉を身に付けるとともに、文化を知って味わうこと。それらすべてが指導者としての成長につながる。
そのように判断したという。なかでも私が感銘を受けたのは、ある方から娘がいただいた以下の言葉である。
「オランダに住んでいれば、何人ものオランダ人と出会うことになる。そこで『君は何のためにここに来たのか?』と問われるだろう。そのときに自分の考えを伝えれば、たくさんの人が手を貸してくれる。ここはそういう国だ」
もうそれを聞いただけで、いけいけ飛雄馬どんと行け!と背中もお尻も押したくなる。しかも、オランダは教育水準が高く、その制度や内容の豊かさは世界一とも言われる。このため、国際連合の補助機関であるユニセフが2020年に発表した「先進国の子どもの幸福度ランキング」は1位。先進国38カ国中20位(精神的幸福度においては37位)の日本からスポーツ指導や育成を学びに行く娘には、自国では得られない数々の発見があるに違いない。