「金利上昇で日本銀行は破綻」という、メディアが騒ぐ「トンデモ論」を斬る

金融・財政の原則無視の俗説に騙されるな・前編

時価評価でないので日銀の信用失墜はありえない

日本の消費者物価指数(総合指数、2022年12月)は前年同月比で4.0%、生鮮食品とエネルギーを除くベースでも同3.0%になった。全国ベースよりも先行して公表される東京都区部の1月分は、前者が4.4%、後者が3.0%であり、物価のじり高が続いている。

黒田東彦・日本銀行総裁  by Gettyimages

日本の企業物価指数は前年同月比で10.2%(12月)と既に米国並みに上がっている。企業のコスト転嫁が比較的スムーズに進む米国と異なり、日本では企業物価指数が示すコスト上昇を企業が最終消費価格に転嫁するのが数か月も遅れる傾向が見られる。そのため消費者物価のじり高は少なくとも今後数か月は継続すると筆者は予想している。またその後に低下する場合も、デフレ懸念が再燃するほどには下がらないだろう。

 

物価上昇率がデフレに悩まされた水準から底上げされれば、最終的には名目金利(ここでは国債利回り)もそれに応じて上がる。例えばインフレ率2%が長期にわたって定着すれば、0.5%の利回りの国債を保有し続けることは、毎年1.5%の購買力が減少する金融資産を持っていることになる。投資家が合理的である限り、そんな低利回りの国債を保有しようとは思わないからだ。ここまでは経済学的にも常識の議論だ。

ところがそこから飛躍して、次のような俗説が出回っている。1. 長期国債利回りが上昇する(債券価格が下落する)と長期国債を大規模に保有している日銀に巨額の債券評価損が生じる。2. その評価損で日銀が債務超過になる。3. 日銀の信用が失墜する。4. 日本国債も円相場も暴落し、インフレも加速する。

このシナリオのうち、1は正しい。2も「日銀が仮に保有国債を時価評価すれば、債務超過になり得る」という条件付きで正しい。しかし3、4へと繋がる必然性は全くない。前編ではこの点を取り上げよう。

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