”声を上げて泣いて笑ってしまった。我慢していたものが一気に爆発したみたいでした。にしおかすみこさん、あたたかい人なのですね。大好きになりました。”

これは、にしおかすみこさん『ポンコツ一家』を読んだかたからのメッセージのひとつだ。

「母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。45歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである」

こんな衝撃的な書き出しでにしおかすみこさんの連載が始まったのは2021年9月20日。連載13本に書き下ろし5編を加えて一冊となった『ポンコツ一家』に本当に多くの温かい声が集まっている。


そして、それは現代に本当に大切なものを教えてくれるようでもある。担当編集が思わず涙した「優しさの連鎖」とは。

イラストレーターの西淑さんが『ポンコツ一家』の装画を担当。「初めてボンテージを描いた」とおっしゃっていたにしおかさんSMマトリョーシカのイラストを持って笑顔! 写真提供/にしおかすみこ
 

泣いたり怒ったりしても、誰かを悪者にしない

『ポンコツ一家』はにしおかすみこさんが2020年、コロナ禍で仕事がなくなり、家賃が安い家に引っ越そうと思ったときに実家に帰った日の話から始まる。

家賃10万円、25平米。最寄り駅・西新宿五丁目。一人暮らしだ。じゅうぶんな広さだろう。仕事なし貯金なし彼氏なし、その上部屋なしになったらきつい。底なしの落ちぶれ者だ。部屋の日当たりは良い。陽に心が救われることもある。ここに決めた。後は書類に判子を押すだけだ。

少しホッとしたのもあり、ふと実家が気になった。
父は耳も遠く、母は糖尿病も患っている。姉は老化が早い。誰だって歳をとる。コロナ禍でどうしているかな。1年ぶりに様子を見に行くことにした。

心配も噓ではないが、引っ越しの荷造りも済ませたので、段ボールから皿やカップを出したくない、実家でご飯を食べよう、という本音もあった。
だから実家に戻って住もうなどと、その時は夢にも思っていなかった。
(『ポンコツ一家』より」

そこで、こういう状況を目の当たりにするのだ。

ローテーブルの上に、割りばしが突っ込まれたままのカップ麺や缶詰、
茶色いお惣菜がこびりついたプラスチック容器、半分セメント色したミカン、黒炭のようなバナナの皮等々の食べ残し、残骸が溢れている。
ちょっとしたゴミ屋敷だ――
。(『ポンコツ一家』より)」

こうして、にしおかさんは自分が実家に帰るしかないと決断、借りようとしていた部屋ではなく、引っ越し先を実家に変更する。『ポンコツ一家』にはそのときからのことを、一切「盛る」ことなく、ユーモア満載で書いているのだ。

にしおかさんの文章で特筆すべき点のひとつは、決して被害者ぶっていないことだ。確かに、冷静に思えば認知症は病気であって、その行動に悪意があるわけではないし、本人だってなりたくて認知症になっているわけではない。

写真提供/にしおかすみこ

にしおかさんはお金を管理しようとしてドロボーと言われたり、自分のことを忘れられたりして泣くこともある。ひとりでゴミ屋敷を掃除したり、排せつ物の処理をしたりもして、ブチ切れることもある。しかしそんな壮絶な状況でも、誰かを「悪者扱い」しない。そこで起きたことは嫌、泣いちゃったりもする。でも、だからといってその起きたことのきっかけを作った人を憎むことはしない。仮想敵を作ることで味方を増やすようなやり方と真逆だ。

もちろんそれは味方を増やすためでもない。泣いたりわめいたりしながら、にしおかさんは自然にそうしている。だから、「悪口ではない愚痴」になって、読む側も思う存分共感できるのだろう。