タイムリーに規制改革を提案する学会目指す--「制度・規制改革学会」設立の狙いを八代尚宏会長に聞く
岸田文雄内閣になって「規制改革が後退している」と危惧する経済学者らが集まる「制度・規制改革学会」が立ち上がった。2月7日に行われた設立総会・シンポジウムには、これまで改革に携わってきた大物経営者らが顔を揃え、改革に向けた行動の重要性を訴えた。総会では八田達夫・大阪大学名誉教授と八代尚宏・昭和女子大学特命教授、竹中平蔵・慶應義塾大学名誉教授が理事に就任した。なぜ今、新しい「学会」なのか。会長に選ばれた八代教授に話を聞いた。(聞き手は磯山友幸)
岸田政権になって規制改革は逆行
問 規制改革の現状についてどうお考えですか。

八代 以前にOECDで日本経済を担当していましたが、1980年代の「強過ぎる日本」の要因については色々な説明が可能でした。それが90年代に入ると今度は「弱過ぎる日本」になり、30年間まったく成長しなかった。同じ日本なのになぜ大きく変化したのかの説明には「誰か悪者のせいだ」と言えば分かり易い。岸田文雄首相は就任時に「行き過ぎた市場競争が問題だ」とし、「新自由主義が格差を拡大した」とも言われました。
そうでしょうか。私は、90年頃を境に旧ソ連・東欧の社会主義圏が崩壊し、中国経済の台頭等、世界が大きく市場経済化したのに、日本が過去の成功体験から何も変えようとしない「政策の不作為」が主因だと考えています。変わる世界に合わせて、過去の規制や制度を変えていかなければいけないのに、岸田政権になって規制改革はむしろ逆行し、何でも国に頼る、社会主義的な政策になっています。
問 経済成長には規制緩和が必要だということですか。
八代 単に規制緩和すれば良いのではなく、むしろ、時代の変化に合わせて新しい規制を作らなければいけない。例えば、日本は終身雇用が前提だったので、わずかの解雇手当しかなく、そのため解雇判例の積み上げで対応してきました。欧州型の金銭解雇などの明確なルールがないことが、むしろ弱い立場の中小企業労働者に不利となっています。