「100万円を持って家出」だが、母はどこまでも追ってきた…58歳母を殺害した「医学部9浪」の娘の告白
2018年3月、滋賀・守山市野洲川の河川敷で、両手、両足、頭部を切断された体幹部だけの遺体が発見された。遺体は激しく腐敗しており、人間のものか動物ものかさえ判別が難しかったが、その後の捜査で、近所に住む58歳の女性のものと判明する。
女性は20年以上前に夫と別居し、31歳の娘と二人暮らしで、進学校出身の娘は医学部合格を目指して9年間もの浪人生活を経験していた。
警察は6月、死体遺棄容疑で娘を逮捕する。いったい二人の間に何があったのか――。
獄中の娘と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづる、驚異のノンフィクション。
浪人生活はついに9年目へ
2013年、あかりは6月に27歳の誕生日を迎え、浪人生活はついに9年目に入った。10回目の受験生である。
このころになると、あかりを厳しく縛っていた母の監視の目も、以前に比べればいくぶん弱まってきているように感じられた。一緒に入浴することも2~3年前からはなくなっていた。
母が観葉植物を買うために通っていたショッピングモールは営業不振で経営母体が変わり、ほとんどのテナントがいったん退去して廃墟のようになっていた。
朝10時過ぎに向かうも、駐車場には数台しか車は停まっていないので、いつも通り身体障がい者用のスペースに母は軽を停める。
かつてスーパーマーケットが営業されていた巨大な白い壁の横を通ってエスカレーターに乗り、2階のフードコートへ向かう。
かつては10店舗以上営業していたが、残っているのはラーメン店だけ。がらんと広い食事スペースにいるのは、母と私の2人だけ。開放感と寂寥の中、朝ご飯のラーメンを啜る。
腹ごなしに館内を真っ直ぐ歩く。ひたすら白い壁が続く。ところどころに取って付けたような休息スペース。ソファにまるでホームレスのような初老の男が寝そべっている。私達以外でこの日見掛けた初めての客か。エスカレーターの近くに大きな観葉植物が設置されているが、鉢から垂れるヘデラの葉先が茶色く枯れてしまっている。
「持って帰ってあげるのに……」と母が呟く。