2023.02.23

「100万円を持って家出」だが、母はどこまでも追ってきた…58歳母を殺害した「医学部9浪」の娘の告白

2018年3月、滋賀・守山市野洲川の河川敷で、両手、両足、頭部を切断された体幹部だけの遺体が発見された。遺体は激しく腐敗しており、人間のものか動物ものかさえ判別が難しかったが、その後の捜査で、近所に住む58歳の女性のものと判明する。

女性は20年以上前に夫と別居し、31歳の娘と二人暮らしで、進学校出身の娘は医学部合格を目指して9年間もの浪人生活を経験していた。

警察は6月、死体遺棄容疑で娘を逮捕する。いったい二人の間に何があったのか――。

獄中の娘と交わした膨大な量の往復書簡をもとにつづる、驚異のノンフィクション。

「母という呪縛 娘という牢獄」(講談社)12月14日より発売

浪人生活はついに9年目へ

2013年、あかりは6月に27歳の誕生日を迎え、浪人生活はついに9年目に入った。10回目の受験生である。

このころになると、あかりを厳しく縛っていた母の監視の目も、以前に比べればいくぶん弱まってきているように感じられた。一緒に入浴することも2~3年前からはなくなっていた。

母が観葉植物を買うために通っていたショッピングモールは営業不振で経営母体が変わり、ほとんどのテナントがいったん退去して廃墟のようになっていた。

朝10時過ぎに向かうも、駐車場には数台しか車は停まっていないので、いつも通り身体障がい者用のスペースに母は軽を停める。

かつてスーパーマーケットが営業されていた巨大な白い壁の横を通ってエスカレーターに乗り、2階のフードコートへ向かう。

かつては10店舗以上営業していたが、残っているのはラーメン店だけ。がらんと広い食事スペースにいるのは、母と私の2人だけ。開放感と寂寥の中、朝ご飯のラーメンを啜る。

腹ごなしに館内を真っ直ぐ歩く。ひたすら白い壁が続く。ところどころに取って付けたような休息スペース。ソファにまるでホームレスのような初老の男が寝そべっている。私達以外でこの日見掛けた初めての客か。エスカレーターの近くに大きな観葉植物が設置されているが、鉢から垂れるヘデラの葉先が茶色く枯れてしまっている。

「持って帰ってあげるのに……」と母が呟く。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大