岸田政権のサプライズ「植田総裁」人事で、これから起こることを予言しよう《高橋洋一の視点》
雨宮総裁案はなぜ潰れたか
政府は日銀総裁に元日銀審議委員の植田和男氏、副総裁には氷見野良三前金融庁長官、内田真一日銀理事を起用する人事を固めたと報じられた。現在の黒田東彦総裁の任期は4月8日、雨宮正佳、若田部昌澄両副総裁の任期は3月19日まで。政府は人事案を2月14日に国会に提示する。衆参両院の同意を経て内閣が任命する。
2月初め、一部新聞で雨宮正佳副総裁を総裁とすると報じられた。その際、副総裁候補が報じられず、かなり不自然だった。しかも、官邸サイドから、打診はしていない、観測気球だと反応があり、他の新聞は追随できなかった。
今回雨宮氏が固辞したというが、総裁人事は遅くとも1ヵ月以上前に打診しているはずなので、固辞というのはあり得ないだろう。
筆者は、2月初めの報道を本当に観測気球だったと思っている。もし、マーケットの反応が良好なら、雨宮総裁、植田副総裁、氷見野副総裁だったのではないかと邪推している。日銀としては、総裁ポストを絶対欲しいはずだし、雨宮氏は日銀プリンスとしてその人事路線に乗っていた。
しかし、官邸の思惑とは違い円安にふれた。本来であれば円安はGDP増加要因で悪くないが、今の官邸は物価対策に近視眼なので円安は悪いと勘違いしている。このため、雨宮総裁案をとらず総裁・副総裁を一人だけかえて、今回の案になっただろう。氷見野氏が総裁では3期連続で財務省出身となり岸田政権は財務省の言いなりとの批判を受けるので、植田総裁になったというのが筆者の見立てだ。
もっとも結果として植田総裁はサプライズだし、学者出身で国際標準なので、国会で批判を受けることも少ないという岸田政権の判断だろう。自民党内には、アベノミクス継承せよ、具体的には今の若田部副総裁を総裁にせよとの意見も根強いので、それへの配慮からも同じ学者出身で理解が得やすいというメリットもある。何しろ岸田政権はその支持率低下しているので、国会より党内政局のほうがより心配だ。円高にふれたのも官邸には好都合だ。
一般的に中央銀行総裁に求められる条件は、(1)博士号、(2)英語力、(3)組織の統率の3つだ。植田氏は(1)と(2)は申し分ない、(3)は金融庁長官を務めた経験もある氷見野氏と日銀ブロパーの内田氏がカバーするのだろう。結果的には国際標準に近づいたといえる顔ぶれになった。