2023.04.11

個性は幻想…アメリカの精神科医サリヴァンが指摘した「意外な現実」と「その危うさ」

「個性なんて幻想だ」という言葉を、自分個人の価値を否定されたと捉えるか、「個性的であれ」という規範意識からの解放と捉えるか、あるいは単なる事実の指摘だと思うか、はたまた過激な主張だと思うかは人それぞれだろうが、「個性とは幻想である」といった精神医学の先駆者がいる。アメリカのハリー・スタック・サリヴァン(1892-1949)である。サリヴァンの『個性という幻想』(講談社学術文庫)を手がかりに、このことについて考えてみよう。

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人間は相違点より共通点の方が多い

サリヴァンは「科学では一個体にしか現れない差異については取り扱わない」と言う。生物学にしても物理学にしても、あるいは社会学でもたしかにその通りだ。統計を重視し、再現性を重視する。したがって精神医学もそうであるべきだと考える。人間はお互いに「違っているところ」よりも「共通しているところ」の方がずっと多いのだ、と。ある講演で「『真の』自己、一人ひとりに特有の自己などありえないと仰るのですか?」という質問に対して、サリヴァンはこう答える。

どれほど「個性」に自信をもっているひとであろうとも、日々きわめて限られた範囲内の行動しかとっていないことは、統計学によって証明可能なファクトです。どれほど個性があろうとも、ほとんどの局面でその他大勢と同じことをするのです。

人間が没個性的であることと、それぞれが特有の対人パターンを繰り返すものであるという二点は、いずれも客観的観察に基づく妥当なステートメントです。(引用はすべて『個性という幻想』より。以下同じ)

たしかに大抵の人は食事や排泄をし、寝る。足がどれだけ速い人でも、チーター並みの速度では走れない。人間のすること、できることは、ある一定の幅に収束する。個々人の個性や才能は、どれだけ優れたものであっても、巨視的に見れば一定の幅に収まる程度の差異に過ぎない。

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