2023.02.16

「ヤミ漁獲」「産地偽装」大間まぐろ事件はなぜ起こったか? 摘発につながったジャーナリストの告白

漁師20数名が書類送検へ

「大間まぐろ」は、日本で最も知られた水産物ブランドのひとつである。

その本州最北端、青森県大間町で獲れるクロマグロを巡り、町内の仲卸業者2名が漁業法違反容疑で逮捕されたニュースは、漁業関係者はもとより国民に衝撃を与えた。

2月7日、青森県警に逮捕されたのは「魚忠」社長の新田忠明容疑者と「最北水産」社長の佐々木一美容疑者。捜査は続いており、両社にマグロを販売した漁師4名が漁業法違反で書類送検され、20名近くが同じ容疑で取り調べを受けている。

「大間まぐろ」の一本釣りは、厳しい自然を相手にした人間ドラマとしてテレビ番組の人気コンテンツで著名漁師も少なくないが、捜査対象者のなかには国民に存在を知られた漁師も含まれている。

荒々しくも「ロマン」を感じさせるマグロ漁は、大物を釣り上げれば豊洲市場の初競りで3億3360万円の値を付けたこともあるという「夢」につながる。

大間漁協での荷捌き場 樫原弘志撮影

一方で今回の漁業法違反は、漁獲可能量(TAC)を定め、その枠のなかで漁師が漁獲した量を報告することを義務付けているのに、それをしなかったというもの。大間漁協などを通さずに夜間、あるいは遠方で、こっそり水揚げして処理しているというからいじましい。

水産庁は、2018年、漁獲報告義務違反に懲役や罰金を課すTAC規制に乗り出した。逮捕者を出したのは初めてだが、大間のマグロ漁はTAC規制前から報告無視の「ヤミ漁獲」や大間産とごまかす「産地偽装」の噂が絶えなかった。

 

夢とロマンに彩られた「大間まぐろ」の現実が露となった事件だが、この問題を10年近く前から掘り起こし、警告を発し続けてきたジャーナリストがいる。

元日本経済新聞記者の樫原弘志氏──。

農水省を2度、担当して農水産業に明るく、地方部編集委員として農業、漁業の現場を取材、マグロについては07年に「がんばれマグロ漁業」という夕刊連載を20回、続けたこともある。今回の摘発要因のひとつは、昨年6月、樫原氏が業界の専門紙『日刊水産経済新聞』に執筆した記事だった。

4年前に日経を退職後もフリージャーナリストとして「大間まぐろ」にこだわり続けた樫原氏に真相を聞いた。

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