2023.03.18

ストリーミングで「大打撃」のクラシック界…クラシックでも「売れるコンテンツ」を持つウィーン・フィルのスゴイ戦略

ベルリン・フィルと並び、世界二大オーケストラとして知られている『ウィーン・フィル』は、 ニューイヤーコンサートでもおなじみ、小澤征爾さんが指揮をしたこともあるオーケストラだ。

そんなウィーン・フィルが長きに渡り、唯一無二の音楽を観客に届けられた理由のひとつに、経営のユニークさがある。じつはこれまで一貫して経営母体を持たず、その運営は演奏家が自らが行ってきたという。

後ろ盾を持たない彼らは、どういう手法で収入を得ているのだろうか。その実態に音楽ジャーナリストで『ウィーン・フィルの哲学』の著者である渋谷ゆう子氏が迫る。

渋谷ゆう子著『ウィーン・フィルの哲学』

「利益率の低い」ストリーミングサービスに適応するために

オーケストラには<【第2回】クラシック界が大躍進した「レコード技術」の発展…これだけで「業界全体」が潤うようになったワケ>、<【第3回】ソニーがCDの容量は「74分」と決めたワケ…録音開発に深く関わった、クラシック界「大御所指揮者」の名前>の記事で述べたように、コンサートのチケット収益と共に、音源販売による収益があり、また各国のテレビ・ラジオ放送契約での収益がある(<【第4回】ストリーミングでは儲からない…!? CDの売り上げアーティストにとって「死活問題」と言える、これだけの理由>の通り、近年では動画や音源のストリーミング会社との配信契約も行なわれている)。

2010年以降、音楽の視聴環境はストリーミング再生に移行し、CDやLPなどの「フィジカル」は売り上げを大きく落とす時代となった。

 

利益率の高いCDなどとは違い、ストリーミングサービスは利益率が低く、1回の再生で権利者に支払われる金額が1円を切るサービスさえある。その微々たる収益をレーベルや指揮者、ソロ演奏家、オーケストラなどの複数の権利者で配分しなければならないのだから大変だ。

たとえCDの購入と同程度の数、例えば100万人のストリーミング視聴者がいたとしても、オーケストラが得られる収益は1曲あたりで数万円にしかならない場合もあるのだ。レーベル側も、これでは音源制作の経費を捻出するのが難しくなる。

それでもクラシック音楽愛好家はアナログ盤や高品質のCDなど、音が良いとされる音源商品を好んで購入する傾向があるので、まだ多少は音源制作の道筋が残されてはいるが、かつてと比べると厳しい状況であることに変わりはない。

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