人は亡くなった瞬間から、最期の治療代の支払から、遺体の保管、棺に入れてもらって火葬や納骨、役所の手続きや財産の片づけや処分等、必ず誰かにやってもらうしかありません。
銀行口座ひとつ解約するにしても、まずは故人の生まれてから亡くなるまでの戸籍一式を揃えるところからのスタートです。忙しい現代人が、ほとんど経験したことのない作業に振り回されるのは大変なことです。そこでこれらの対応を第三者に委任することが増えました。
その契約のことを、『死後事務委任契約』と言います。
最近では、終活とともに死後事務委任という言葉も、国民の方々に浸透してきました。身近な人が亡くなるということを、それほど経験することはないので、ご家族がいらっしゃったとしても委任したいという思いは当然のように感じます。
死後事務委任契約をしただけではダメ
ここでひとつの事例をあげたいと思います。
井上真智子さん(仮名73歳)は、生涯を独身で過ごし、ひとりっ子だったために誰を頼ることもできませんでした。そこで行政から紹介を受けた人と、死後事務委任契約を締結しました。
これで終活も終わったと安心し、夜もやっと寝られるようになりました。不安がなくなったので、1日でも元気で人生を楽しもうと心がけました。

翌年のお正月、死後事務受任者から年賀状が届いていました。そこでふと気が付いたのです。
契約をしてから、この年賀状が届くまで、真智子さんは元気だったので死後事務受任者とは一度も連絡を取っていませんでした。それどころか年賀状を見るまで、その存在自体を忘れていたほどです。