児童虐待の相談件数が毎年更新している。しかも、「暴力」という目に見える虐待が減少し、暴言という心理的虐待の率が増加しているというのだ。
長く教育やスポーツの現場を取材し、『スポーツ毒親』『部活があぶない』などの著書も多く持つジャーナリストの島沢優子さんは、暴力と同様、暴言による指導について警鐘を鳴らし続けてきた。
暴力は減り、暴言が増えている。そのことは教育現場を取材しても感じるという。それはなぜなのか。そして、暴言の恐ろしい影響とは。
島沢優子さん連載「子育てアップデート~子どもを伸ばす親の条件」はこちら
子どもたちを「言葉」で怯えさせる父
「ギーッ、ガチャッ」
玄関ポーチの扉が開く音がすると、子どもたちは一目散に自分の部屋へ駆け込んだ。父親の帰宅を知らせる音だ。中学1年生と小学3年生の兄弟のうち、特に長男が怯えていた。塾の成績が下がると「誰が塾代を払っているのかわかってるのか?頑張らないなら高校にも行かせないぞ。義務教育は中学までだからな」と怒鳴られた。部活動で試合に出られないと「次の大会で試合に出られなかったらやめろ」と脅された。
「おまえは俺に似なかったから成績が悪いんだ。他人の倍努力しないといけないんだぞ」
父親は自分が卒業した大学と母親のそれとは「偏差値が倍くらい違うんだ」と子どもたちに自分の学歴を自慢した。そして長男に「おまえはお母さんに似たんだ」と言った。
以上は、私が2年ほど前に取材した都内に住む女性の話である。女性が「偏差値の話なんかしないで」と訴えても、「冗談だろう?突っかかってくる方がバカだ」と逆切れするありさまだった。
