うつ病、自閉スペクトラム症、統合失調症......。多くの現代人を悩ませる発達障害や精神疾患について、原因解明や治療法開発のための研究が進んでいます。
本記事では、脳科学の視点から最先端の研究を紹介した『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)の中から、「注意欠如・多動症(ADHD)」についてご紹介しましょう。
*本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
最初に記された「ADHDの症例」
注意欠如・多動症(ADHD)の人は、知的障害のない人であれば同じ年齢の人と比べて、知的障害のある人であれば同じ発達段階の人と比べて、注意が散漫だったり、落ち着きがなく、待つことが苦手だったりすることで、日常生活に困難を抱えています。
ただし、ADHDがどのような状態であるのかという概念や診断基準は、時代とともに移り変わってきました。
ADHDが最初に記載されたのは、1845年に医師でもある絵本作家が著した子どもの記載でした。そこには、今でいうADHDの子どもの様子がこのように描写されています。
やがて もぞもぞ しはじめて
それから いすを がたがたいわせ
それから あしを ばたばたさせて
もじもじ ごそごそ おちつかず
まえや うしろに いすを ゆらす
〔ハインリッヒ・ホフマン:著、佐々木田鶴子:訳『もじゃもじゃペーター』1985年、ほるぷ出版刊〕
脳の損傷や炎症が原因?
医学的には1902年、英国の医学誌『ランセット』に掲載されました。しかし、その病態が明らかになったわけではありません。当時ADHDは、脳の損傷や炎症に伴う疾患だと考えられました。
しかし、そのような明確な損傷や炎症は明らかになりません。そのため、目に見えない原因による機能障害という意味で、今でいうADHDのことを微細脳機能障害(minimal brain damage)と呼ぶ時代が長く続いたのです。