2023.03.18

「池田小児童殺傷事件」で愛娘を亡くした母が「加害者と向き合う」と決めた理由

優希さんの「最期の68歩」

小学2年生の長女・優希さんをあの池田小事件で亡くし、一時はすべての希望を失った本郷由美子さん。途方もなく重いグリーフに打ちのめされ、抜け殻のようになっていたという。

それでも再び前を向いて生きる力を本郷さんに与えたもののひとつは、優希さんの「最期の68歩」だった。

本郷さんは事件直後、優希さんが即死したと聞かされていた。ところが警察の捜査によって、驚くべき事実が明らかになる。優希さんは重傷を負いながらも教室から廊下に逃げ出して、本郷さんの歩幅で68歩分、約39mを出口に向かって必死で歩いていたのだ。よろめきながら、最後の力を振り絞って、生きようとして。

本郷由美子さん
 

衝撃を受けた本郷さんは、毎日のようにその廊下に通ううち、ふと、優希さんから「ママは与えられたいのちを精一杯生きてね」と語りかけられたような感覚を抱いたという。

やがて、愛娘が最後まで希望を捨てずに68歩分を歩いたことの尊さを思い、自分も前を向いて生きようと決意して、以後、グリーフケアを精力的に実践していく。

詳しくは新著『かなしみとともに生きる』に記されているが、本郷さんが始めた活動には、犯罪の加害者と向かい合うことも含まれている。傷つき苦しんだ人々に手を差し伸べる支援だけでなく、他者を傷つけ苦しめた人々を贖罪に導く対話にも、本郷さんは熱心に取り組んだのである。

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