「池田小児童殺傷事件」で愛娘を亡くした母が「22年間」でたどりついた「ある想い」
長女・優希さんの遺志を少しでも社会に多く繋げたい
本郷由美子さんがふだん、犯罪の被害者を支援する一方、刑務所や少年院を訪ねて加害者とも対話していることは前回までに紹介した通りだが、向かい合う相手はそれだけにとどまらない。
第二回記事『「池田小事件」で愛娘を亡くした母が、それでも「加害者と向き合う」と決めた理由』
災害の被災者、障がいを持つ人々、緩和ケア病棟やホスピスに入っている人々、病や自死で家族を亡くした人々、ホームレスの人々、独居高齢者……と、実に多くの人から相談を受け、こころのサポートに努めているのだ。
池田小事件で亡くなった長女・優希さんの遺志を少しでも社会に多く繋げたいとの願いから、さまざまなかなしみに積極的に寄り添っているようにも思える。2年余り前、筆者が初めてお会いしたのも、そんなグリーフケアの場のひとつだった。

ここ数年、筆者は勤務先で仕事を終えた平日の夜、ときどき中学生や高校生を対象にした無料塾の講師として学習支援のボランティアをしている。その同じ場所で、毎週日曜日にグリーフケアの活動(後出のライブラリー)がスタートしたと聞いて興味を持ち、さっそく訪ねて見学させていただいた。
その際に、活動の代表だと紹介された本郷さんに初めてご挨拶したのだが、筆者は不覚にも、どういう方か存じ上げなかっただけでなく、なぜグリーフケアに取り組んでおられるのかにまったく思いを致さなかった。帰宅後、頂戴した名刺から主催する団体のウェブサイトを見て、初めて池田小事件の被害者のご家族だと知って仰天し、自分の迂闊さを深く恥じた。
以後、老若男女どんな人ともフラットな目線で柔らかく真摯に対話する本郷さんの姿勢には、ただ敬服し続けている。新著『かなしみとともに生きる』の語り口にも同様の印象を持った。今回、その揺るぎないスタンスの底に、多くの人にいのちを支えてもらった「恩」への感謝があると聞いて、なるほどと得心するものがあった。