著者の執筆したものに『ウォーキングの科学』という本があるが、この本を書いた第一の目的はそうした研究成果を読者に紹介することだった。そして、もし体力の低下が加齢性疾患の根本原因なら、運動処方によって体力を向上させればこれらの疾患の症状が改善し、医療費も削減されるはずである。
もう一つ、私たちの研究結果がその考えを支持していることを読者に紹介することが、本書執筆の動機だったが、これらの結果を得るのになんと20年近くかかってしまった。
なぜ、こんなに長くかかったのか。その理由を以下に述べてみよう。
国際標準なら「半年で症状改善」でも、大きな問題
私の専門とする「運動(スポーツ)生理学」における体力向上のための運動処方の「国際標準」を紹介しよう。
まず、トレッドミル(ランニングマシン)や自転車エルゴメータなどのマシンを使って個人の体力を精度よく測定する。そして、体力の上限の60%以上の強度を持つ運動を、それらのマシンを使って1日30分以上、週3日以上実施する。そうすれば、遅くとも6ヵ月で体力が10%以上向上し、それに比例して生活習慣病を含むさまざまな加齢性疾患の症状が改善する、というものだ。
しかし、この「国際標準」にそった運動方法には問題がある。