つまり、この「国際標準」にそったやり方ではお金がかかる。マシンを購入しなければならないし、それを置いておく場所もいる。何より、運動トレーニングを指導するスタッフを雇わなければならない。
したがって、この国際標準の運動処方を「忠実」に実施するには、低く見積もっても、一人あたり、なんと年間30万円もの費用(会費)が必要となるのだ。

これでは、体力向上の運動処方を一般庶民に普及させることは困難である。したがって、体力向上による、加齢性疾患の症状改善効果と医療費の抑制効果とを実証することはこれまで不可能だったのだ。
「インターバル速歩」という新たな選択肢
そこで、私たちはマシンに依存しない運動処方の開発に乗り出した。主な開発項目は以下の3つである。
(1)マシンに代わる体力測定方法の開発
もっと、安価に、簡単に、体力向上の運動トレーニングができないか。まず、普通歩行以上の速さで歩行した際や、坂道・階段など高度差がある場所を歩行した際でもエネルギー消費量が正確に測定できる携帯型カロリー計を開発した。
次に、この装置を用いて中高年を対象に歩行による体力測定をおこなった。その結果、ほとんどの方において、最速で歩行した時のエネルギー消費量と、自転車エルゴメータと呼気ガス分析器を用いて測定したエネルギー消費量とが見事に一致したのだ。
すなわち、わざわざジムに行って体力測定をしなくても、この装置を腰に装着し3分間最速で歩きさえすれば、個人の最大体力(最高酸素消費量)が測定できることを明らかにした。
(2)マシンに代わる運動方法の開発
マシンに代わる体力向上のための運動方法はないか。私たちは、最大体力の70%以上に相当する早歩きと、40%程度のゆっくり歩きとを交互に繰り返す「インターバル速歩」を考案した。
なぜ、早歩きの後にゆっくり歩きを挟むのか。当初「国際標準」にならって1日30分の早歩きだけを指導したところ、誰も歩かなかったからだ。筋肉痛がおこり息切れがしてしんどいだけ、という散々の評価だった。

そこで、若い人たちが実施しているインターバル・トレーニングにヒントを得て「インターバル速歩」を思いついた。
そして、その間のエネルギー消費量を上記の携帯型カロリー計で測定した。その結果、ほとんどの中高年者が指導通り「インターバル速歩」を1日30分以上、週4日以上、5ヵ月間実施した。
(3)ジムに代わる運動処方の開発
次に私たちが取り組んだのが「わざわざジムに行かなくても、遠隔で専門家の運動指導を受けられないか」という課題を解決する方法だった。
そのために私たちはIoTを利用することにした。1ヵ月に1回指定された日時に自宅近くの地域公民館に集まり、携帯型カロリー計に保存されている歩行記録をPC端末経由でサーバー・コンピュータに転送する。