その理由は、
- 現場で「個人の体力」を精度よく知る方法がなかったこと
- ウォーキング中に「歩行速度が個人の目標レベルに達していること」を知る装置がなかったこと
- 「個人の最大体力の70%以上の速度でウォーキングすると効果が出ること」について、多くの被験者を対象とした科学的証拠が乏しかったこと、
の3つである。

(2)運動習慣を定着させるために必要なこと
体力向上・健康改善には運動習慣の定着が必須である。しかし、どのような因子がそれにどの程度関与しているのか、これまでほとんど研究されてこなかった。
理由は、たとえば「一日一万歩」の場合は自治体などのスタッフの“熱意”の影響、また、マシン・トレーニングの場合はジムのサービス内容の影響が大きいからだ。さらに、マシン・トレーニングの場合には会費も影響するだろう。そして、何よりもこのテーマの研究は時間と労力、それに費用がかかるのだ。
一方、私たちのシステムはほとんどのサービスをIoT化したのでスタッフの人的影響をほとんど受けないし、どんなに長い期間を研究対象としても労力と費用がほとんどかからない。したがって、このテーマの研究には最適なのだ。
(3)機能性食品の効果の検証
医薬品の効能検証では、大学病院などの医療機関が舞台となる。さらに、その効果も比較的短期間のうちに現れなければ医薬品として承認されない。
一方、機能性食品とよばれるものには、そのような効果検証フィールドは存在せず、また、その効果も現れるのに数ヵ月はかかる。さらに、被験者の身体特性、食事、活動量なども結果に影響する。したがって、巷には“怪しい”機能性食品も多い。
私たちのシステムでは治験に参加する人たちの身体特性や、介入中の食事、活動量のモニターができるので、この目的に最適なのだ。
(4)治療医学への応用もできる
体力向上はあらゆる加齢性疾患治療の万能薬だ。すでにデンマークのコペンハーゲン大学ではインターバル速歩の糖尿病患者への治療効果の大規模コホート研究(長期の追跡調査)が始まっている。
彼らは、もしそれで期待通りの結果が得られれば、インターバル速歩を国民健康保険適用にすることも視野に入れているそうだ。私たちも“負けじ”と糖尿病患者や整形外科患者を対象としたインターバル速歩の治験を開始している。
インターバル速歩に対する社会的評価は?
これらの業績の一部は「エクササイズガイド2006」と、文科省の「平成22年度科学技術白書(未来を切り拓き課題解決に貢献する科学・技術)」で紹介された。
さらに、日本抗加齢医学会など臨床系学会、中央災害防止協会などの団体からの講演依頼があり、その数、3年間で100件あまりに達する。
これらの成果は「体力向上のための運動処方をジムから解放した」という理由で、国の内外で高く評価され、国内ではNHKの「ためしてガッテン」「クローズアップ現代+」「きょうの健康」「チョイス」などで取り上げられ、海外でも「ニューヨーク・タイムズ」紙に複数回取り上げられた。
このようにマスコミなどで3年間の間に新聞、雑誌も含めると200件以上取り上げられ、その後も様々な機会に紹介されている。
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『ウォーキングの科学』でのテーマは、加齢による体力低下と加齢性疾患発症メカニズム、そしてそれらの予防方法について「インターバル速歩」を中心に運動(スポーツ)生理学の立場から述べたものだ。しかし、読者がそれにとどまらず、ヒトとは何か、超高齢社会とはどうあるべきか、というところまで思いを馳せていただければ著者として望外の喜びである。
運動に対するハードルはけっこう高いもの。でも、ウォーキングなら手軽に、すぐにでも始められます。でも、なんとなく歩くだけでは体力アップはむずかしいことも事実。科学的に徹底的に研究した著者が、効果的で継続しやすい方法「インターバル速歩」を紹介します。