3.11後、あれほど情熱を注いだ「再エネ」事業を孫正義が手放した本当の理由…建前と本音の先にあるもの
GX150兆円投資の最中に
稀代の実業家であり投資家の孫正義・ソフトバンクグループ(SBG)会長兼社長が、「日本を救わなくてはならない」と事業を一時、中断してでも取り組むと公言したのが3・11東日本大震災後の「日本再生」だった。
3月22日に福島県の避難所などを訪問した孫氏は、5月25日に全国の自治体と自然エネルギーの普及促進を加速させることを目的とした「自然エネルギー協議会」の設置を発表した。また、8月12日に私財を投じて「自然エネルギー財団」を立ち上げた。
事業化のためにSBエナジーを設立したのが10月6日。当時、民主党政権の太陽光など再生可能エネルギーを全量、国が買い取る制度を民間の側から促進していただけに、「やはり政商だ」と批判されると、「再エネでの儲けは考えていない。そんな小さな男ではない!」と、色をなして反論した。それから11年半が経過し、SBエネジーは太陽光667メガワット(MW・1MWは1000kW)、風力60MWなどを運営する日本有数の再エネ会社に成長した。
SBGは、2月9日、この「日本再生のための会社」の85%の株式を、トヨタ系豊田通商に譲渡することを発表した。
変わり身の早さは孫氏の真骨頂であり、それが彼を「稀代の経営者」にした。とはいえ、ロシアのウクライナ侵攻を巡る化石燃料のひっ迫と脱炭素化という世界の趨勢に合わせ、岸田文雄政権が脱炭素化へ向けた取り組みのGX(グリーントランスフォーメーション)150兆円投資を明らかにするなど、SBエナジーの蓄積が生かせるときに撤退を決めたのはなぜなのか。

筆者はSBGに質問書を送った。回答は後述するとして、この間のSBエナジーを核とするSBGの再エネへの取り組みは、「先読み」の力で日本をリードする孫氏の「本音」と「建前」の交錯を如実に示すものだろう。それは「孫正義とは何者か」を、改めて問うことでもある。
「3・11」に際して、孫氏が本気で危機感を持ったのは確かだろう。地震直後の津波で原発事故が発生し、その大混乱のなかSBは緊急役員会を開き、孫氏は「少なくとも3ヵ月間、最高経営責任者としての仕事を辞めさせてもらいたい」と発言し、役員らの大反対にあっている。孫氏は机を叩き、大声で怒鳴って「事故対応専念」を訴えたが、役員らの抵抗を受けて断念する。その代りに手がけたのが、原発代替としての再エネだった。