今回は、前回の記事〈『多くの人を悩ませる…「ADHD」は「いつまで続く」のか? いったい「どんな人が当てはまる」のか? 』〉に引き続き、『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)の中から「注意欠如・多動症(ADHD)」をご紹介します。
ADHDが生じるメカニズムについて、最新の4つの仮説があるというのですが――。
*本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
ADHDが生じるメカニズムとは?「4つの仮説」
(1)実行機能の障害――目標達成のために計画的に行動できない
ADHD(Attention-Deficit / Hyperactivity Disorder:注意欠如・多動症)の原因として、米国の心理学者バークレーらは1990年代に実行機能障害仮説を提唱しました。これは、目標を達成するための計画を立て、その計画に従って行動する機能に支障があるという仮説です。
実行機能は、企業の最高経営責任者(CEO)にもたとえられ、ある課題の達成のために行動を指令したり制御したりするはたらきをしており、主に脳の前頭前野によって司られています。
実行機能に障害があると、目標がなかなか定まらず、目標を達成するための計画もうまく立てられません。さらに、目標以外のことに気を取られて遅刻するなど、行動の抑制がうまく効かず計画的に行動することが難しくなります。

実行機能を調べる研究手法は多様です。ADHD症状と実行機能の課題成績の相関の強さはさまざまで、実行機能障害だけですべてのADHD症状を説明することは困難であることも明らかになっています。
目の前の「報酬」を優先してしまう
(2)報酬系の障害――目の前の気になることを優先しがち
英国の心理学者ソヌーガ・バークらは、2003年にADHDにおける報酬系障害の存在を指摘しました。報酬系とは、より多くの報酬や快が得られるように行動を選択する脳の仕組みで、脳の深いところにある大脳辺縁系の側坐核(そくざかく)などが関係しています。
中でもADHDで機能障害があると言われているのは、報酬遅延の嫌悪です。分かりにくい表現なので、詳しく説明しましょう。
同じ報酬を得ることができたとしても、その価値は報酬を与えられるタイミングによって変わってきます。いま直ちに与えられる報酬に比べて、報酬が得られる時期が先になるほど、その報酬の主観的な価値が下がっていく(割り引かれていく)のです。