「うつ病」は、なぜ原因のストレスが消えても治りにくいのか? 脳科学で見えた「一つの答え」
脳科学の視点から最先端の研究をわかりやすく紹介した話題の新刊『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)のコラムの中から、「うつ病」と「適応障害」の違いについてご紹介しましょう。
*本記事は『 「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。
「うつ病」と「適応障害」の決定的な違い
私たちは日常の中で、「うつ」という言葉を気軽に使っています。これは海外でもそうで、 depressionという英語は日常用語になっています。それだけに、病気としての「うつ病」と日常語の「うつ」のあいだの見極めは、簡単ではありません。
日常語の「うつ」というのは、失恋など誰でも嫌な気分になってしまうようなストレス因があって、気分が落ち込んでいる状態です。この落ち込み方が、その原因に比べて不釣り合いに強い場合に、適応障害と診断されます。
そして、適応障害の診断基準の中には、ストレス因がなくなれば治る、ということが書かれています。うつ病でも、ストレス因がきっかけになることが多いのですが、うつ病は、ストレス因が解消されたからといって治るものではありません。
適応障害がなかなか治らない理由
仕事の失敗で損失を出したことが契機となって適応障害になった人は、「あの損失、間違いでした!」と言われたら飛び上がって喜びますが、仕事の失敗で損失を出したことが契機となってうつ病が発症した人は、「あの損失は解消したから大丈夫ですよ」と言われても、「いや、そんなはずはない。自分の損失は決して解消しないはずだ」などと悪いほうにしか考えられません。

うつ病は、きっかけとなったストレスがなくなったからといって、自然に治るわけではないのです。
このように、適応障害は「ストレス因が解消されたら治る」わけですが、実はこれがくせ者です。なぜなら、適応障害の原因となったストレスは、解消される場合ばかりではないからです。
「うつ病」と「適応障害」をどうやって見分けるか
ストレス因がなくなれば治る、とひと言で言われても、そのストレス因は、なくなるまで何十年かかるか分からない。いや、なくならないかもしれないのです。となると、「ストレス因がなくなれば治る」という基準では、うつ病と適応障害の鑑別ができないではないか? ということになります。