戦車供与の決断と西側の結束
ドイツのラムシュタインにある米空軍基地に50ヵ国もの国防大臣らが集まって、ドイツを責め立てたのが、1月20日のこと。なぜ責めたかというと、ドイツが、世界最強と言われる自国製戦車「レオパルト2」のウクライナへの供与を躊躇していたからだ。
ドイツでは、この会合の前日に国防相が交代した。前任者はレンブレヒトという女性で、軍事に無知すぎるとか、ウクライナ支援を進める意欲がないとか、ボロクソに叩かれたが、ショルツ首相が氏を最後まで庇った。ひょっとすると、ランブレヒト氏はショルツ氏の意向を汲んで戦車供与を引き伸ばし、ショルツ氏の人身御供を務めていたのかもしれない。

後任のピストリウス国防相は10年ぶりの男性だ。話が少し横道に逸れるが、女性国防相第1号は、現在、EU委員会の委員長として権力を振るっているフォン・デア・ライエン氏で、それがクランプ=カレンバウワー氏に変わったのが2019年。交代の式典が、選り抜きの兵士たちが一糸乱れず整列した厳粛な雰囲気の中で行われたが、その時、並び立った新旧の国防相のうち、フォン・デア・ライエン氏がニコッと笑って、横にいたクランプ=カレンバウワー氏の手を取った。
両者とも小柄で、そうでなくても若干場違いに見えていた式典の風景が、この「お手手つないで」で完全に幼稚園の学芸会のようになった。これを見た兵士たちは、こういうか弱い人たちを守らねばと奮起したのか、それとも、自分たちは彼女らの命令で戦場に赴くのかとガックリきたのか。
その後、2021年12月に社民党の現政権となり、前述のレンブレヒト氏が大臣に就任。その2ヵ月後にウクライナ戦争が勃発したのだから、素人国防相の破綻は無理もなかった。それを今、ピストリウス氏が引き継ぎ、国防省が少しそれらしく見えてきたが、ただ、「兵役経験のある国防相!」というのがメディアの賞賛の言葉だったぐらいだから、ドイツの安全保障は結構危ないところまで行ってしまっているのかもしれない。
さて、話をレオパルト2に戻すと、長らく首を縦に振らなかったドイツも、1月25日、ついに14両のレオパルト2の供与を決定。米国政府も自国製戦車エイブラムス31両を送ると歩調を合わせ、また、これまで製造国のドイツが認可しないから、手持ちのレオパルト2を供与できないと文句を言っていた同盟国にも認可が出され、ハードルは消えた。こうして、約90両のレオパルト2がウクライナに送られることが決まったのである。
ショルツ首相はその日、国民に向かって、「私を信頼してください。ドイツ政府を信頼してください」と朗らかに宣言。それまでショルツ首相のことを優柔不断なダメ首相のように罵っていたメディアまでが惜しまず喝采した。

もちろん、ピストリアス新国防相は、ドイツのこの変身は、少なからず自分の手柄であると認識しており、その後、間を置かずにウクライナとポーランドを訪問。また、依然として滞っている軍事費の増額や軍備強化も宣言し、ドイツの心機一転ぶりを内外に示した。いずれにせよ、ドイツの勇断で西側の結束はこれまでになく強くなるはずだった。