ノーベル賞科学者・山中伸弥教授が「いちばん信頼している」小児脳科学者・成田奈緒子医師の新著『高学歴親という病』が大きな話題を呼び、発売1ヵ月ではやくも第4刷とベストセラーになっている。
知的にも経済的にも恵まれているケースが多い高学歴親が、なぜ「子育てのジレンマ」に陥って抜け出せなくなるのか。
同書は豊富な実例を示しながら、データと論理によって分析し、そこから抜け出す的確な処方箋までを提示している。
『高学歴親という病』では、高学歴親が子どもに与える「ストレス」についても実例を挙げて解説している。子どもを精神的に追い詰める「悪玉ストレス」はもちろん排除したほうが良いが、むしろ子どもを成長させる「善玉ストレス」もあるのだとか。同書から抜粋公開する。
悪玉ストレスが子どもを追い詰める
「子育てとは、子どもへの心配を信頼に変えることです」
講演やセミナーで、いつもそう伝えます。
それでも、人が良い方向へ変わるのに一番の良薬は「不安」だという考えは根強いです。

彼らの考えはこうです。
「不安を抱かないと人は変われない」
「今の自分ではダメだからこう変わらなくてはと不安を持てば、そこからエネルギーが湧いてくる」
それらの不安は私から見れば「ストレス」です。ストレスをかければ子どもは伸びると、大人は信じています。
特に子どもに高い目標を持たせたい高学歴親は、強いストレスを与えがちです。ストレスは子の成長に良いのでしょうか。悪いのでしょうか。
実は、ストレスには善玉ストレスと悪玉ストレスがあります。コレステロールに善玉コレステロールと悪玉コレステロールが、腸内細菌にも善玉菌と悪玉菌があるのと同じです。
私たちはストレスを受けると、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール(副腎皮質ホルモンの1つ)を分泌し、血管を収縮させて血圧を上げたり、体内でグルコース(糖)をつくって血糖値を上げるなどして、ストレスに対応できるように備えます。
これは大切な防御機能ですが、ストレスが慢性化すると、心身にさまざまな悪い影響が出ます。
「こんなものじゃダメだ」と他者からひどく怒られたり、怒られる前から「これでは怒られる」と怖れ、「どうして私はアイディアが浮かばないのか。やはり自分には能力がないのだ」とか「この仕事には向かないんだ」などと考え続けてしまう。
そうやって心身の状態を悪化させてしまうのが悪玉ストレスです。自己肯定感が弱い人はこうなりやすいと言えます。
これに対し、アドレナリンを出してやる気を出させる善玉ストレスが存在します。これは他人からではなく「自ら与えたストレス」になります。
たとえば、私が何かの原稿に取り組んでいるとします。
「この文章ではダメだ。もうひとつ何かパンチが欲しい、工夫しなくては」と考えるとき、大量のアドレナリンが出てきて集中できる。これは善玉ストレスによるものです。スポーツなどで言われる「適度な緊張感」がこれに当たります。