日銀総裁候補・植田氏が踏み込んで明かした「金融政策の正常化」…その2つのプロセスと内在するリスクとは
慎重な言い回しだが…
黒田日銀の金融政策を踏襲する考えを強調、「安全運転」に終始した――。
多くのメディアや専門家は、こう判で押したかのように論評した。衆議院・議院運営委員会で先週金曜日(2月24日)に行われた日銀総裁候補・植田和夫氏の所信聴取・質疑に対する受け答えを巡って、である。

こうした論調の背景には、メディアや専門家の側に、植田氏は、腹の中で、黒田日銀の大規模な金融緩和の副作用を強く意識しており、一刻も早く見直したいと考えているものの、日銀総裁に就任するためには国会の同意が必要なので今回の所信聴取・質疑では本音を覆い隠して無難な言葉を紡ぐだろうという思い込みが強かった気がしてならない。非公式な取材では、筆者にそう語るメディア関係者も少なくない。
しかし、実際には植田氏はもともと極めて慎重な人柄と言われている。そして、その極めて慎重な人柄を勘案すれば、むしろ、あの聴取・質疑では、かなり踏み込んで誠実に自身の考えている金融政策の在り方を吐露したとみるべきなのではないだろうか。
というのは、その所信と質疑の記録を素直に読み返すと、慎重な言い回しの中からも、植田氏が考えている金融政策の正常化に向けた2つのプロセスがはっきりと浮かび上がってくるからである。
あわせて、その極めて慎重な人柄ゆえに、金融政策の正常化が植田氏の想定通りには進まないリスクにも思いを巡らさざるを得ない側面がある。
実は、筆者は、注目の所信聴取の3日前、ある人物から植田氏のヒトとナリを聞く機会があった。名前を明かすことはできないが、この人物(以後、「A氏」と記す)は、日銀審議委員時代の植田氏と共に、日銀の金融政策決定会合のメンバーをつとめ、当時の金融政策の立案・実行に尽力したひとりである。