そこで、中国問題コラムニストの近藤大介と、現代ロシア研究の第一人者・廣瀬陽子慶応大学教授が、「知られざる中ロ関係」について、徹底討論した。名乗りを上げた中国は、ウクライナ戦争を変えるのか――。(撮影/中野和志)

習近平主席のモスクワ訪問はあるか
近藤: 廣瀬さんとは、このたびご縁があって、『日本人が知らない! 中国・ロシアの秘めた野望』と題した共著を出させていただきました。同じユーラシア大陸に位置する大国の中国とロシアは、一体どんな国なのか? 習近平主席とウラジーミル・プーチン大統領の本当の関係はどうなっているのか? 両国関係の過去・現在・未来について、ひいてはウクライナ戦争の終結の仕方について、余すところなく議論した一冊です。
今日は、この新著の内容も踏まえながら、ウクライナ戦争とロシア、中国について、いま一番ホットな部分について議論していきたいと思います。
廣瀬: よろしくお願いします。
近藤: ウクライナ戦争が勃発して、先週でついに一年が経ってしまいました。この一年、廣瀬さんは日々戦況を注視して来られたと思いますが、いまどうご覧になっていますか?
廣瀬: そうですね、プーチン大統領は、先週2月21日に行った年次教書演説で、ロシアの軍事侵攻を正当化した上で、「ロシアを打ち負かすことは不可能だ」と強調しました。つまり、今後とも侵攻を続ける姿勢を明確にしたわけです。
ロシア人の多くは、1991年に西側諸国によって大国だったソ連が崩壊させられ、その後もロシアはずっと西側に虐げられてきたと考えています。今回もウクライナというより、その向こうにいる西側諸国と戦っているのであり、戦争は仕方ないと思っている人が多い。そのためプーチン大統領の支持率は、いまだに高いんです。戦争には反対でも、プーチン大統領を支持するという人もいます。
一方、アメリカのジョー・バイデン大統領も2月21日、ウクライナを電撃訪問した後に訪れたポーランドで、「ロシアがウクライナで勝利することは決してない」と力説しています。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談では、ウクライナへの新たな武器支援も約束しました。
こうした状況を見ると、ウクライナ戦争が終息していく糸口は見えて来ません。大変残念なことではありますが、当面はこのまま戦争が進んでいく可能性が高いと思います。
近藤: 本当に、21世紀の世の中で、まるで第二次世界大戦が復活したような戦争が、一年も続き、互いに大量の死傷者を出しているんですから、悲しい現実ですよね。
そうした中、ここへ来て「もう一つの大国」が顔を出してきました。すなわち、2月14日から22日まで、中国外交トップの王毅氏(党中央政治局委員兼中央外事工作委員会弁公室主任兼国務委員)が、ヨーロッパ(フランス、イタリア、ドイツ、ハンガリー)とロシアを歴訪したことです。外遊最終日の22日には、モスクワでプーチン大統領とも会見しました。ウクライナ戦争に関して、初めて中国が、世界に存在感を見せつけた格好です。
廣瀬: ロシアにとって、特にウクライナ侵攻後、中国は最重要のパートナーです。そのため何とかして、中国を味方に引き入れたい。王毅氏と笑顔で会見したプーチン大統領が、改めて習主席のモスクワ訪問を要請したことが、そうしたロシアの思惑を表していると思います。
近藤: 確かに、わざわざテレビカメラが入った冒頭で、「習近平主席のモスクワ訪問を期待している」と言っていましたね。中国側は習近平訪ロの件で、王毅氏の発言を報じていませんが、王毅氏は北京へ帰って、習近平主席と訪ロについて、いま一度検討したはずです。