2023.03.17

「群衆」は「文明をむしばむバイキン」である…フランスの心理学者がそう考えた“意外な理由”

SNSをはじめとしたインターネット上のコミュニケーションや、情報の発信や収集に力と時間をそそぎ、他者の動向につねに注意を払いがちな現代人。

「群衆」と化したオンライン上の言葉に強い影響を受けるあまり、自分で考え、判断し、行動するための主体を失い、極端な考えから、極端な考えへと、右往左往しがちです。

そんな現代を予見し、警鐘を鳴らした人間がいました。19世紀末に活躍したフランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンが書いた『群衆心理』は、現代を生きる私たちに、有効な方法論を指し示します。この本は、「赤信号みんなで渡れば怖くない」的な行動をするどく批判します。

そもそも「群衆」とはいったい何なのか? 今日の社会心理学研究の発展にもおおいに貢献した古典的名著、ル・ボンの『群衆心理』を一部抜粋、編集しながら紹介します。
 

文明をむしばむ「群衆」

幾多の文明は、これまで少数の貴族的な知識人によって創造され、指導されてきたのであって、決して群衆のあずかり知るところではなかった。

群衆は、単に破壊力しか持っていない。群衆が支配するときには、必ず混乱の相を呈する。

およそ文明というもののうちには、確定した法則や、規律や、本能的状態から理性的状態への移行や、将来に対する先見の明や、高度の教養などが含まれている。

これらは、自身の野蛮状態のままに放任されている群衆には、全く及びもつかない条件である。

群衆は、もっぱら破壊的な力をもって、あたかも衰弱した肉体や死骸の分解を早めるあの黴菌[ばいきん]のように作用する。文明の屋台骨[やたいぼね]が虫ばまれるとき、群衆がそれを倒してしまう。

photo by gettyimages

群衆の役割が現われてくるのは、そのときである。

かくて一時は、多数者の盲目的な力が、歴史を動かす唯一の哲理となるのである。

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