焦った翔さんは、自分自身の記憶に曖昧な部分があったこともあり、「そんなどうでもいいことにいつまでもこだわっていないで、メシにしようぜ」と、わざと明るい調子で伝えたところ、かたい表情のままの美奈子さんの怒りは静かに爆発したのでした。
「そう……。私にとっては大切なことばかりだったけれど、やっぱり翔にはどうでもいいことだったわけね。よくわかったわ」
やがて、間もなく家を出ていった彼女から、弁護士を通じて翔さんは正式に離婚を告げられたのでした。

メンタルに大ダメージ
「まさか自分が……」と思いながらも、熟年離婚をせざるを得なくなった翔さんが最初にぶち当たったのが「世間体」という壁だったといいます。
「人事部や職場の上司、部下に離婚を報告するのは屈辱的でした。離婚の理由を聞かれるたびに、自分の落ち度を責められている気がしたし、信用を失い、社会的にダメ出しをされているようでとてもつらかった」
翔さんがしばらくの間、メンタルをやられていた理由はそれだけではありませんでした。
「『お互いにいい年して、なぜ離婚しなければならないの?』と両親からも離婚を責められましたが、それ以上に『オヤジ、何やってんだよ。しっかりしろよ』と息子に失望されたのは相当きつかったです。
今さらながら、家事も育児も妻にまかせっきりだったことも反省しました。いざひとりになってみると、何がどこにあるのかすらわからない。仕事を終えた後、コンビニで飯を買ってから誰もいない家に帰宅する日々も精神的に参る要因のひとつでした」