機械式時計の凄まじい進化を見よ…今や「204.5万年で誤差はたった1日」
より正確で安価なクォーツ式が普及したにもかかわらず、高価な機械式腕時計の虜になる人が後を立たないのはなぜなのか。
コロナの渦中も、むしろ売上を伸ばした高級時計人気の秘密と、その本当の価値、選び方、買い方や心得について、時計マニアの評論家・山田五郎さんが、独特の視点で鮮やかに解説する。
名画をおもしろわかりやすく解説したYouTubeチャンネル『山田五郎 オトナの教養講座』も、あっと言う間にフォロワー48万人超え。評論・解説の確かさに定評のある評論家・山田五郎さんは、じつはAHS(イギリス古時計協会)、GPHG(ジュネーヴ時計グランプリ)アカデミー会員であるほど時計の知見も非常に高い。
そんな五郎さんが、小学生時代以来、愛してやまない時計人生の集大成をまとめたのが、『機械式時計大全』(講談社選書メチエ)。この記事は、その本からの抜粋で構成したものです。
複雑機構は「機械の宝石」
時刻を測るという基本機能の他に追加機能を持つ時計を 「複雑時計(コンプリケーテッド・ウォッチ)」、そのために付加される機構を「複雑機構(コンプリケーション)」と呼びます。
回路ひとつで機能を増やせるクオーツ式時計では、今や多機能が当たり前。ところが機械式時計では、いまだに機能がひとつ増えるだけで複雑時計と呼ばれて有り難がられ、値段もポンと跳ね上がるのはなぜでしょう? 単に作るのに手間がかかるからではありません。機械式の複雑機構は、機能以外にも魅力があり、むしろそちらの方が大きいからです。
物理的な実体のある機械式は、全ての機構を視覚と触覚で確認できます。精密な部品が嚙み合って驚くほど複雑な動作を実現してゆく様を目で鑑賞し、始動ボタンを押す際の感触や作動中の振動を肌で味わうことができるのです。
そして、クオーツ式の電子回路にはない機械式ならではのこの味わいを何倍にも増やしてくれるのが、複雑機構にほかなりません。
複雑機構こそは機械式時計でしか味わえない醍醐味中の醍醐味であり、時計好きが憧れてやまない高嶺の花。時計にご興味のない善男善女を呆れさせる 「宝飾もなく機械だけで何千万円もする時計」 は例外なく複雑時計です。複雑機構は「宝石より高価な機械」ともいえるでしょう。
