「高級時計」は結局どう買うのがいちばんいいのか? 山田五郎が伝授する「買い方」の極意
より正確で安価なクォーツ式が普及したにもかかわらず、高価な機械式腕時計の虜になる人が後を立たないのはなぜなのか。
コロナの渦中も、むしろ売上を伸ばした高級時計人気の秘密と、その本当の価値、選び方、買い方や心得について、時計マニアの評論家・山田五郎さんが、独特の視点で鮮やかに解説する。
名画をおもしろわかりやすく解説したYouTubeチャンネル『山田五郎 オトナの教養講座』も、あっと言う間にフォロワー48万人超え。評論・解説の確かさに定評のある評論家・山田五郎さんは、じつはAHS(イギリス古時計協会)、GPHG(ジュネーヴ時計グランプリ)アカデミー会員であるほど時計の知見も非常に高い。
そんな五郎さんが、小学生時代以来、愛してやまない時計人生の集大成をまとめたのが、『機械式時計大全』(講談社選書メチエ)。この記事は、その本からの抜粋で構成したものです。
失敗こそが見る目を養う
今日では機械式腕時計の大半がインターネット経由の通信販売で購入できます。けれども、繰り返し述べてきたように、時計の質感や重量感や操作感や装着感には、現物を見て触れてみなければ絶対にわからない部分が多々あります。
特に機械式は、各メーカーが定めた厳しい基準を満たす中にも微妙な個体差が生じ、厳密にいえば同じ商品は二つとありません。たとえ売り場で現物を確認した上で、メーカーの公式サイトを通じて同じモデルを注文しても、全く同じ商品が届くわけではないのです。
一方、過去のモデルなど、ネットを通じてしか手に入らず事前に現物の確認ができない商品も沢山あります。その場合はさらにリスキー。写真やデータだけで明確な実体をイメージし、ムーヴメントの種類や状態まで推測できる知識と経験がない限り、うかつに手を出さない方が無難です。
どうしてもという場合は先達に相談するのがいちばんですが、信頼できる先達ほど判断をためらうはず。経験を積んだ人ほど失敗体験も多く、現物を見ずに判断する怖さを身をもって知っているからです。