「人間の死因」の累計第1位「感染症」を引き起こす「病原体」…そのひとつ「コロナウイルス」の凄すぎる戦略
人類誕生から現在まで、人の死因の累計第一位は感染症であることをご存知ですか? 感染症を引き起こすウイルスや細菌などの病原微生物(病原体)は、その小さな体と限られた遺伝情報の中に、ヒトなどに感染して自らの子孫を効率よく増すための、巧妙で狡猾な生態を持つものばかりです。
「敵に勝つには、敵を知ることから」ーーシリーズ【感染症の病原体 プロファイル】では、そんな病原体たちの「見事な」までの戦略、生態を、『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説でご紹介します。
今回は、新型コロナウイルス感染症の原因であるコロナウイルスです。日本では第8波のピークは過ぎましたが、それでも毎日、数万件の新規感染が発生している新型コロナウイルス感染症。その原因であるSARS-CoV-2以外にも、普通の風邪の原因となるなどの複数のコロナウイルスが存在します。まずは、この「コロナ」の語を定着させるにいたったSARS-CoV-2の出現から流行のはじまりを振り返りつつ、それぞれのコロナウイルスの基本をおさらいしていきましょう。
すべてのはじまり
2019年12月31日の大晦日。湖北省武漢市で原因不明の肺炎が発生していることが、中国保健当局からWHO中国事務所に報告されました。これが、世界中で猖獗(しょうけつ)を極めている新型コロナウイルス感染症*の公式な第一報です。
当初は、華南海鮮卸売市場で働く従業員を中心に感染が拡がったため、市場で売られていた野生動物との直接的な接触による感染が疑われました。
しかし、実際にはヒトからヒトへと伝播することが明らかになり、翌1月以降、日本を含む世界各地に感染が拡がっていきました。感染拡大を受けて、WHOは1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。さらに3月11日には世界的流行を指す「フェーズ6」、いわゆるパンデミックの状態であることを宣言しました。その後も、世界各地で感染は拡大しつづけ、多くの方々が犠牲となっています。
日本では1月15日に最初の感染者が確認されて以降、感染者は増えつづけ、死亡者も徐々に報告されるようになりました。3月29日にコメディアンの志村けんさんが死去され、大きな衝撃を与えたことは、皆さんもご存じの通りです。4月7日には、首都圏や大阪など7都府県で、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて初めての緊急事態宣言が発令されています。
*2023年3月現在、感染症法上の分類を「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に引き下げることが決定し、それに伴って「新型コロナウイルス感染症」という名称を「コロナウイルス感染症2019」などに変更する案が検討されています。



ゲノム解析の結果、病原体が新しいコロナウイルスであることが判明。当初、暫定的に2019-nCoVと呼ばれていましたが、その後、国際ウイルス分類委員会は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2[SARS-CoV-2])と正式に命名しました。2003年に分離されたSARS-CoVと近縁だと明らかになったためです。

また、WHOはこの病名をコロナウイルス病-19(Coronavirus Disease-19[COVID-19])に定めました。本稿執筆時(2023年3月)までに報告された感染者数は、およそ6億7600万人、死者は688万人で、今もなお増えつづけ、100年前のスペインかぜにも匹敵する未曾有の厄災となっています。