2023.03.18
「新型コロナウイルス」流行のウラで、じつは「梅毒」の感染者数が「増大」していた…!
人類誕生から現在まで、人の死因の累計第一位は感染症であることをご存知ですか? 感染症を引き起こすウイルスや細菌などの病原微生物(病原体)は、その小さな体と限られた遺伝情報量の中に、ヒトなどに感染して自らの子孫を効率よく増やして広めるための、巧妙で狡猾な生態を持つものばかりです。
「敵に勝つには、敵を知ることから」――シリーズ【感染症の病原体 プロファイル】では、そんな病原体たちの「見事な」までの戦略、生態を、『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説でご紹介します。
今回は、「梅毒トレポネーマ」です。SARAS-CoV-2流行の影で、感染者数が増大しています。2022年の感染件数は13,000例あまり(国立感染症研究所「発生動向調査」iDWR)で、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降で最多を更新しました。性交渉など、「濃厚接触」を増殖の機会とするこの病原体の正体を見ていきましょう。
コロンブスが持ち帰った? 負の土産
1492年のコロンブスのアメリカ到達は、歴史上の一大偉業に数えられますが、生態学的にも非常に大きな出来事でした。航路が拓かれたことにより、新大陸のタバコやジャガイモ、トウモロコシ、旧大陸のコムギやコーヒー、ヒツジなど数多くの動植物が、それまで生息しなかった地域に広がったのです。このことは「コロンブス交換」と呼ばれています。
ただし、「交換」されたのは、有用な作物や家畜だけには限りません。例えば、旧大陸から持ち込まれた痘瘡は、免疫を持たない新大陸の人々に大勢の死者を出しました。そして、新大陸から旧大陸に持ち帰られた「負の土産」の一つだと考えられているのが梅毒です。
