累計死者数「第1位の死因」…この「圧倒的な強敵」と人類の「凄すぎる攻防」
『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』人類誕生から現在まで、人の死因の累計第一位は、感染症であることをご存知ですか?
これまで【感染症の病原体 プロファイル】シリーズでは、感染症を引き起こすウイルスや細菌などの病原微生物(病原体)の、巧妙で狡猾な生態をご紹介してきました。
今回から数回にわたっては、感染症と人との攻防について、興味深いトピックをご紹介していきたいと思います。引き続き、『最小にして人類最大の宿敵 病原体の世界』を執筆された微生物学者の旦部幸博さんと北川善紀さんの解説です。
人類誕生とともに生まれた感染症という危機。正体である病原体を、人はどのように見出し、打ち勝とうとしてきたのか、その攻防を振り返りつつ、薬剤の開発で解決したかに思われた感染症に、新たに浮上してきた問題について解説します。
目に見えない「何か」
人類が地球に誕生してから、あるいはその祖先の時代からずっと、我々は感染症に苦しめられてきました。太古の人々は、こうした病気の発生には、呪いや祟りなど、何か「超自然的」な力が働いていると考えたようです。
文化人類学的には「接触呪術 contagious magic」または感染呪術と呼ばれ、呪いの源である「何か」に直接触れることで呪われるだけでなく、呪われた人に触れることでもその呪いが伝わるのだと人々は考えました。
宮崎駿のアニメ映画『千と千尋の神隠し』に、主人公の少女、千が白竜の少年ハクの体から追い出した黒い芋虫を踏み潰し、釜爺に「えんがちょ!」と言われるシーンがありますが、あのイメージが近いかもしれません。この「えんがちょ」、地域によって呼び方が異なりますが、似たような体験は誰にもあるのではないでしょうか。

こうした原始的な考えを迷信だと考えて、最初に科学的に説明しようとしたのが「医学の父」ヒポクラテスをはじめとする古代ギリシアの人々でした。
現代のあらゆる学問のルーツが古代ギリシアに遡るといわれ、「万物は元素でできている」という化学の基本的な考え方(元素説)もその一つ。彼らは元素説に基づいて、空気や水、大地などの元素が「悪い状態」になったものが、病気の原因だという仮説を唱えます。
なかでも多くの病気に関係すると考えられていたのが「悪い空気」で、ミアズマあるいは瘴気(「沼気」とも。いずれも「しょうき」)と呼ばれました。本連載でご紹介したマラリアも、病名自体がそのものずばりの「悪い(mal)空気(aria)」というイタリア語に由来します。