「今、私食べられている!」植物にも動物のように“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた!

超・進化論(1)
NHKスペシャル取材班+緑慎也

「食べられている!」という情報を全身に伝達

私たちは、高精細に撮影できるカメラを持ちこみ、豊田さんの顕微鏡に合体させて、実験の撮影に挑んだ。まずアブラナ科のシロイヌナズナの葉を顕微鏡の台に置き、その上に、アオムシ(モンシロチョウの幼虫)を乗せる。ナズナが好物のアオムシはさっそく葉っぱをむしゃむしゃと食べ始める。すると、ピカピカと光る筋が、食べられた葉からシロイヌナズナの全身に走り始める様子がモニターに映った。「食べられている!」という情報が全身に伝えられたのだ。

高感度実体蛍光顕微鏡で植物の体内で何が起こっているのかを、可視化する実験。
シロイヌナズナをアオムシ(写真左端)が食べ始めると、食べられた部分からピカピカと光る筋が 全身に広がっている。(c)NHK

光ったのは、GFP(緑色蛍光タンパク質)。1962年に下村脩博士によってオワンクラゲから発見された分子だ。下村博士はこの発見の功績により、GFPを遺伝子工学に応用したアメリカの研究者とともに2008年のノーベル化学賞を受賞した。GFPは今や生命現象の可視化に欠かせないツールとして広く普及している。

豊田さんらがシロイヌナズナの細胞に組みこんだのは、カルシウムイオンと結合するとGFPが光り始めるタンパク質。細胞の中でカルシウムイオンが増えると、GFPが緑色の蛍光を発する仕掛けだ。

では、なぜシロイヌナズナの細胞の中でカルシウムイオンが増えるのか? 豊田さんらは次のような仕組みを明らかにした。

葉っぱが虫にかじられて傷つくと、その部位でアミノ酸の一種であるグルタミン酸の濃度が上がる。このグルタミン酸が鍵の役割を担い、細胞表面のカルシウムイオンを通す扉が開く。そして細胞の外に豊富にあるカルシウムイオンが細胞の中へ一挙に流れこむ。

カルシウムイオンのシグナルはかじられた葉の周辺にとどまらず、葉から茎を通じて、全身へ伝わっていることが、ピカピカ光る光の筋からわかる。その様はまるでヒトの全身に張りめぐらされた神経のようだ。

「実は動物も、グルタミン酸とカルシウムイオンを神経伝達に使っています」(豊田さん)

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