最新研究で判明!「ASD」の人の脳で起きている「がん」との意外な共通点 

『「心の病」の脳科学』
うつ病、自閉スペクトラム症、統合失調症......。多くの現代人を悩ませる発達障害や精神疾患について、原因解明や治療法開発のための研究が進んでいます。

今回は、前回の記事(「生きづらさ」を抱える発達障害の一種「ASD」…ついに見えてきたその「原因」)に引き続き、『「心の病」の脳科学』(講談社ブルーバックス)の中から「自閉スペクトラム症(ASD)」をご紹介します。

ASDの脳内では「神経細胞のバランス」が崩れていることがわかってきました。一体その原因はどこにあるのでしょうか?

*本記事は『 「心の病」の脳科学  なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』を一部再編集の上、紹介しています。

脳内のセロトニン量が減少していた

前回の記事では、「興奮性と抑制性の神経細胞のバランスの崩れが、ASDなど発達障害や精神疾患の一因だと考えられている」ということをご紹介しました。神経細胞の活動を促すのが興奮性細胞、活動を抑えるのが抑制性細胞です。

ASDのモデルマウスでは抑制性細胞が減少していたのですが、それはなぜでしょうか。ASDモデルマウスの脳の活動を調べると、脳幹の縫線核(ほうせんかく)という神経細胞群の活動が最も低下していました。そこには、セロトニンをつくる神経細胞が集まっていて、脳の広い範囲にセロトニンを放出しています(「セロトニンを脳の広範囲に放出する脳幹の縫線核」の図参照)。

【図】セロトニンを脳の広範囲に放出する脳幹の縫線核【セロトニンを脳の広範囲に放出する脳幹の縫線核】 縫線核からセロトニンが脳の広範囲に放出される。しかし ASD モデルマ ウスでは、縫線核のはたらきが低下して脳内のセロトニン量も減少して いる  *毛内拡『脳を司る「脳」』(講談社ブルーバックス)より

ASDモデルマウスでは、生後間もない時期から縫線核の活動が低下して脳全域でセロトニンの量が減少しています。セロトニンは、神経細胞の活動を抑制したり促進したりする神経伝達物質としてはたらき、気分や記憶、睡眠や認識などの脳機能に関わっています。また、脳の発達期には、神経栄養因子としてはたらきます。

研究から見えてきた「感覚過敏」の原因

私たちは、ASDモデルマウスの脳の発達期にセロトニン量を増やすことで、体性感覚野の抑制性細胞の減少による感覚過敏が改善するのではないかと予測しました。

そこで、誕生直後の3日目から21日目の離乳期まで、セロトニンのはたらきを強める抗うつ薬(SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害剤)を投与しました。すると、縫線核の活動が高まり、脳全域のセロトニン量が増加しました。そして体性感覚野の抑制性細胞の減少も改善しました。

私たちの実験結果は、15番染色体の一部が重複するゲノム変異が一因となって脳発達期のセロトニン量が減少し、体性感覚野の抑制性細胞が減少して感覚過敏が起きる可能性を示しています。

「感覚過敏」と「コミュニケーション障害」に因果関係はあるか

それでは、脳発達期のセロトニン量の減少による感覚過敏と、社会性・コミュニケーション障害というASDの特徴には因果関係があるのでしょうか。

通常、マウスはほかのマウスに興味を持って近づく社会性を示します。しかしASDモデルマウスは、ほかのマウスに近づいていこうとしません。ところが、生後間もない時期に抗うつ薬(SSRI)を投与すると、ほかのマウスに近づく時間が長くなり、社会性が改善しました。

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