2023.03.10
# 細胞 # 遺伝子

NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」で明らかに! 植物は敵を音で“聞き分け”たり、数十のセンサーを使っている!?

超・進化論(3)

NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、第64回科学技術映像祭において内閣総理大臣賞(自然・くらし部門)を受賞!
生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている! NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。
書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』で、最初に紹介するのは「植物」。
私たちの地球で陸上にいる全生物の重さを足し合わせると470ギガトンにのぼる。​そのうち、私たち人間が占めるのはわずか0.01%。対して植物はなんと95%に達する。
しかし、植物は知性とはほど遠く、人間よりもずっと下等な存在だと考えられてきた。だが、それは果たして本当なのか──。
何度も実験し、ついに植物たちが「聞いている」と確信した、アメリカ・トレド大学のハイディ・アペルさん。ニュースはメディアで大々的に取り上げられた。さらに今では、数十のセンサーを持っているとわかってきた。
連載第1回
「今、私食べられている!」植物にも動物と同じ“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた!はこちらから。

植物はアオムシにかじられる音を「聞いて」いる!

植物が感じるのは、触れられたり、かじられたりするときだけではない。なんと「音」にも敏感に反応するという。そんな衝撃の研究成果で世界を驚かせたのが、アメリカ・トレド大学教授のハイディ・アペルさんらのチームだ。

アペルさんらは、シロイヌナズナが葉をモンシロチョウの幼虫のアオムシにかじられる音を「聞いて」、グルコシノレートと呼ばれる物質の分泌量を増やすことを明らかにした。グルコシノレートは辛味成分の一種で、食害に対する防御反応としてこれを分泌したと考えられるという。

イモムシが葉をかじっているところ。(c)NHK

「多くの人は音楽が植物にとって重要だと考えています。どんな音楽を聴かせれば野菜や果物がよく育つかを調べるような研究は昔からよくありました。ですが、本当に研究すべきことは、植物の生存にとって大事な音です」(アペルさん)

アペルさんらの研究は、まずアオムシが葉をかじる音を記録するところからスタートした。といっても、アオムシの咀嚼音は小さすぎてもちろん耳では聞こえない。かといってマイクロフォンを葉に設置すると、その重みで葉がたわんでしまい、正確な記録ができない。そこで音響分析を得意とする共同研究者のアメリカ・ミズーリ大学教授のレックス・コクロフトさんが、レーザーを使う巧みな方法を考案した。

葉に光を反射するテープを貼りつけ、そこにレーザーを当てるのだ。アオムシが葉をかじると、1万分の2センチメートル程度だが、葉が上下に振動し、反射光の周波数が変わる。この微妙な振動を咀嚼音として記録する。高速道路や一般道路に点在して自動車のスピードを測定する探知機で利用される原理(ドップラー効果)を利用するのだ。

こうして記録した咀嚼音をシロイヌナズナの葉に「聞かせた」ところ、シロイヌナズナはアオムシに食べられたときにグルコシノレートの分泌量を増やし、防御反応を活発化させていることが、アペルさんの化学分析によってわかった。

アオムシ(モンシロチョウの幼虫)が葉をかじる音を記録し、シロイヌナズナに「聞かせる」と、
防御特質を30%も多く作り出すことがわかった。(c)NHK

実験では、咀嚼音以外に、風の音や、ヨコバイ(体長1センチメートルに満たない小さなセミのような昆虫)が求愛するときに奏でる鳴き声も再現した。しかし、特に防御物質の分泌量が増えることはなかった。シロイヌナズナは自身の生存を脅かす音と、害をおよぼさない音を聞き分けていると考えられる。

「植物はなぜ振動(音)の情報を必要としているのでしょうか。葉が昆虫にかじられたとき、植物はその情報を別の信号で全身に伝えることができるのに、なぜ振動を使うのか。その理由はおそらく、他の信号よりも振動が圧倒的に速く伝わるからだと考えています」

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