2023年1月31日にジュネーブの国連本部で国連人権理事会における「UPR(普遍的・定期的検査 / The Universal Periodic Review)」が行われた。ここで日本は多くの勧告が出されたのだという。

大学在学中に「#なんでないの」プロジェクトを立ち上げ、世界の女性の健康、権利について活動してきた福田和子さんが解説する。

出産で教育へのアクセスが左右される社会

『出産で奨学金減免』
これは3月2日、自民党が子育て世代の教育費負担軽減について提言をまとめる「教育・人材力強化調査会」の中で、柱のひとつとして掲げられた政策だ。奨学金の返済に追われる中で、子どもを授かった場合、奨学金の返済額を減免するという内容だ。

この政策によって作り出される社会を少し想像してみてほしい。
経済的に苦しい状況でも大学に行きたいなら、出産せざるを得ない社会。
出産しない、又はできないなら、奨学金返済に苦しんでも仕方ない社会。
すなわち、「子どもを産むか産まないかで教育へのアクセスが左右される社会」だ。

さらに、現段階でこの政策は、事実婚での出産や同性カップルが養子縁組をした場合どうなるかなどは分かっていない。結婚している男女間においてのみで、女性が妊娠出産すれば、男性も含めて減免と想定しているのであれば、異性愛者で結婚できる男性がこれまで以上の特権を得ることにも繋がり、今すでにある不公平を更に助長しかねない内容でもある。

この提言を何の疑問もなく発案し、賛同した人たちは、どういう思考でここに行きついたのだろうか? 個々人の意思はもちろん、誰もが生まれながらに持っている「教育を受ける権利」や多くの国で実行されている「性と生殖について自己決定できる権利」なんて、きっと眼中にないのだろう。気にしていることがあるとすれば、それはおそらく「国力」だ。この政策案も、少子化対策の一部だ。女性やマイノリティの権利を軽視し続け、私たちが当たり前にあるべき権利を訴えても、まるで関心がないような振る舞いをしてきた政府中枢にいる高齢男性たちが、私たちの子宮と出産能力となるとこぞって関心を持つのは、少子化という「国家」の危機……すなわち自分たちの危機と直結するからだ。

 

日本の現状は確かに厳しい。一夫婦が理想とする子どもの人数は2.25人だが、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」等の理由で、一夫婦の実質的な子ども数は1.90人。女性が産みたいと思う人数を産めていない事実がある。これはWHO(世界保健機関)をはじめとする国連や国際機関も提唱している「SRHR(性と生殖に関する健康と権利)」の「リプロダクティブ・ライツ」に関する部分に反しているとも言える。リプロダクティブ・ライツとは、産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利のことを示している。

しかし、政治の場では、「産みたいのに産めない社会でごめんなさい。社会の仕組みを整えます」とはならず、あくまで、「出生数は最大の国難。子どもを産んでください」と言われる。

過去にはこんな発言もあった。「いかにも年寄りが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるけど間違ってますよ。子どもを産まなかったほうが問題なんだから(麻生太郎副総理 2019年2月3日)」と女性が非難されることさえあり、女性の希望と人権が実現されていない事実はほとんど省みられない。本当にこのままで、いいのだろうか?