多くの人が意外と知らない、「地政学ブーム」の落とし穴

既存の地政学本に対する大きな不満

なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか?

「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が発売前から話題になっている。

「地政学」とタイトルのつく本が多く刊行されるようになり、地政学の関心を持つ人が増えている。

そうしたなかで指摘しておきたい、「地政学ブーム」の落とし穴とは?

多くの地政学本に抱いていた不満

戦争の地政学の執筆にあたって、あらためて「地政学」という文字が題名に入っている、近年に公刊された書籍を数十冊買いあさって渉猟してみた。カラフルな挿絵が数多く挿入されていたり、漫画の登場人物が会話をする形式であったり、趣向が凝らされていて、楽しめた。

地政学には、様々な引き出しがある。わかりやすい地図があって便利なもの、思い切った単純化を施して劇画化しているもの、詳細な国際情勢分析を施しているものなど、多様である。

地政学の視点の魅力の一つは、地理的条件が国際情勢に影響を与えているという簡明なメッセージとともに、切り口の多様さでもあるだろう。その地政学が持つ懐の深さは、今後も維持されるべきだし、発展させていくべきだ。

しかしそれにもかかわらず、私にとって不満を感じざるを得なかったのは、地政学があたかも完結した一つの学問分野であるかのように扱われている場合が、あまりに多いことだった。あるいは逆に、多様な地政学の視点を、単なる内部の混乱として扱ってしまうことが、一般化していることだった。私は、以前から、この傾向に不満を持っていた。しかし今回調べ直してみて、あらためて不満が高まった。

確かに世界情勢を図式的に理解できるのは、地政学の視点の大きな魅力だ。だがそれだけでは、世界観を一致させる人々が、互いにただ自分たちの権力欲にしたがって衝突しているだけだという極めて静的な世界の理解が、地政学の全てになってしまう。

現代世界では、武力紛争が多発している。ロシアによるウクライナ侵攻という劇的な事件による悲劇も続行中だ。この世界の矛盾が劇的に露呈している。静的なイメージでの地政学の理解は、私にとっては不満の材料でしかなかった。