—しかし現実世界との繋がりもあって、ピースランドには地震による原子力発電所の災害に見舞われた地域も登場します。
チェルノブイリ原発事故や福島の原発事故を経験した後も、人類はエネルギーの問題を持て余していると思います。太陽がいい例ですが、自然がもたらすものは人間にとって厳しい側面もあれば、恵みにもなります。自分自身も長年、原子力について考えていて、それを小説に盛り込みました。

「奥さんがちょっと怖い」のは重なる
—この世界ではSNSも進化し、社会的評価で個人が順位づけられる「国民ランキング」が浸透、ネット社会がエスカレートしていますね。
良い部分があるのも理解できますが、今のネット社会を僕は普段から苦々しく思っています。この本の執筆中、まさか自分が統一教会問題で炎上するとは思ってもみなかった(笑)。
「SNSでは誰もが共犯者」と小説でも書きましたが、自分で悪意を増幅させて敵を作る状況になりがちです。どうすれば人類はこうした問題を克服できるのか、この小説で考えてみました。現実ではそのうち、炎上を制御するシステムができるかもしれない。
—ピースランド首相の富士見幸太郎と、その秘書たちの活躍もユーモアたっぷりに描かれます。
富士見幸太郎のモデルは映画『社長漫遊記』の森繁久彌、秘書の五代と末松は加東大介、三木のり平です。富士見は書いているうちに、だんだん僕自身にも重なるようになりました。たとえば、ちょっと怖い奥さんがいる設定とか……。
もう一人の秘書、桜春夫は、映画『ニッポン無責任時代』の植木等のイメージです。桜は世間の評価に一切関心がなく世の中を笑い飛ばす、ある種の理想像。植木さんの底抜けな明るさに通じます。
他にもフロンティア合衆国のアン大統領は、『ローマの休日』のアン王女と『赤毛のアン』など、自分の中のさまざまなイメージの断片から、人物を作り込みました。
「週刊現代」2023年3月11・18日合併号より