2023.03.11

「汝の敵を愛せ」と言うけれど…普遍的道徳か実現不能な理想か、哲学者たちの闘い《21世紀の必読哲学書》

早くも混迷を深める21世紀を生きる私たちが、いま出会うべき思考とは、どのようなものでしょうか。

《21世紀の必読哲学書》では、SNSでも日々たくさんの書籍を紹介している宮崎裕助氏(専修大学文学部教授)が、古今の書物から毎月1冊を厳選して紹介します。

第2回(2)(全4回)はG・F・W・ヘーゲル『キリスト教の精神とその運命』(伴博訳、平凡社ライブラリー/細谷貞雄・岡崎英輔訳、白水社/『ヘーゲル初期論文集成』村岡晋一・吉田達訳、作品社)です。

(毎月第2土曜日更新)
若きヘーゲルは、自らをイエスに、カントをユダヤ教に仮託して批判することで自らの立ち位置を示しました(第2回(1)「法」から「愛」へ、若き日のヘーゲルがキリスト教の誕生を論じた意外な理由)。今回は「汝の敵を愛せ」をめぐって、ヘーゲルが乗り越えようとしたカントの思考に迫ります。
 

ヘーゲルのカント批判に入る前に、カント自身がイエスの言葉を引き合いに出して自身の道徳哲学の立場を説明していたことを指摘しておかなければならない。まずカント側の説明を要約しておこう。

たとえば「隣人だけでなく、汝の敵を愛せ」という有名な教えは、カントによれば、敵ゆえに嫌悪するかもしれない相手をも愛さなければならない以上、その時どきの感情に左右されてはならない。そうではなくこれは、端的に道徳的な義務にもとづいてのみ意味をもつ教えである。つまりカントの場合、道徳法則は、個人的な好悪の感情(傾向性)や、他の利得や目的(叱られたり罰せられたりしたくない、善人に見られたい、相手を油断させるため等)によって従うものであってはならない(『道徳形而上学の基礎づけ』参照)。

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