2023.03.18

ものごとの「目立つ部分」にばかり飛びついて、冷静に吟味をしない…「群衆」がもってしまう“危険な性質”

思想は、極めて単純な形式をおびたのちでなければ、群衆に受けいれられないのであるから、思想が一般に流布[るふ]するようになるには、しばしば最も徹底的な変貌[へんぼう]を受けねばならないのである。

やや高級な哲学思想や科学思想にあっては、それが群衆の水準にまで漸次くだって行くには、深刻な変化の必要であることが認められる。

この変化は、特に、その群衆の属する種族如何[いかん]によるのであるが、常に縮小化、単純化の傾向を持つ点では変りないのである。

それゆえ、社会的観点からすれば、思想の等級、すなわち、思想における高下の別というようなものは、実際にはほとんど存在しない。

ある思想が、群衆の水準に達して、群衆を動かすという事実だけで、その高級さ、偉大さが、ほとんどすべて失われてしまうのである。

かつての高級な思想もいつしか単純化され別物に……

ある思想が、種々な経路を経て、遂に群衆の精神にきざみつけられたときには、その思想は、一種不可抗的な力を獲得して、さまざまな結果を次々にひき起こす。

photo by gettyimages

フランス大革命を生むにいたった哲学思想が、民衆の精神に植えつけられるまでには長い期間を要した。

それがいったん民衆の精神に固定されたときの不可抗的な力は、人の知るところである。

一国民全体が、社会的平等の獲得や、抽象的な権利と理想的な自由との実現にむかって突進して、あらゆる王座をゆるがし、西欧の天地をはげしく動乱させた。

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