2023.03.19

ル・ボン『群衆心理』が見抜いていた「バズワード」という存在の「危険すぎる力」

「群衆」と化したSNSをはじめとしたオンライン上の言葉の数々、その影響を受けないではいられない時代がやってきてひさしい気がします。

そんな時代だからか、自分で考え、判断し、行動するための主体性を見失い、極端な考えから、極端な考えへと、さまよってしまうこともしばしばかもしれません。

19世紀末に活躍したフランスの社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンが書いた『群衆心理』は、現代を生きる私たちに、いろいろと有効な方法論を指し示してくれます。

人を群衆の渦へといざない、そしてそれをコントロールするにはどうすれば良いのか? それは「あいまいな言葉」と「幻想の扱い方」のなかにある、とル・ボンは言います。

ル・ボンが書いた古典的名著、『群衆心理』からそのヒミツに迫ります。
 

あいまいなのに影響力をもつ言葉

極めて意味のあいまいな言葉が、往々極めて大きな影響力を持つことがある。

例えば、民主主義、社会主義、平等、自由等々のような言葉が、これである。

photo by gettyimages

それらの意味は、はなはだ漠然としているから、それを明確にするには、大部の書物をもってしてもなお足らないほどである。

それにもかかわらず、真に魔術的な力が、その簡潔な音綴[おんてつ]に伴っていて、あらゆる問題の解決の鍵が、そこに含まれているかのようである。

それらの言葉は、さまざまな無意識の憧憬と、それの実現への希望とを綜合しているのである。

心象をぼかす神秘の力

道理も議論も、ある種の言葉やある種の標語に対しては抵抗することができないであろう。

群衆の前で、心をこめてそれらを口にすると、たちまち、人々の面はうやうやしくなり、頭をたれる。多くの人々は、それらを自然の力、いや超自然の力であると考えた。

言葉や標語は、漠然とした壮大な心象[イマージュ]を人々の心のうちに呼び起こす。

心象[イマージュ]を暈[ぼか]す漠然さそのものが、神秘な力を増大させるのである。

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