NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、
生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている! NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。
書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』で、最初に紹介するのは「植物」。
私たちの地球で陸上にいる全生物の重さを足し合わせると470ギ
しかし、植物は知性とはほど遠く、人間よりもずっと下等な存在だと考えられてきた。だが、それは果たして本当なのか──。
今回は、なんと植物が、“会話物質”を使って害虫から身を守るためボディガードである昆虫を呼び寄せていたことを証明した日本人科学者を取材! 私たちには聞こえないけれど、植物と昆虫という異種間でコミュニケーションが行われていたのだ。
連載第1回<「今、私食べられている!」植物にも動物と同じ“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた!>はこちらから。
なぜ、昆虫に獲物の居場所がわかるのか謎だった
植物は、敵である植食性昆虫を捕食する天敵昆虫とコミュニケーションをとって自分の身を守っていることもわかっている。
植物と天敵昆虫はどんなやりとりをするのか。その謎を解くために私たち取材班は、日本最大の湖、琵琶湖を訪れた。春、湖のほとりは木々や草花で覆われる。特に生い茂っていたのがさまざまな種類のヤナギだ。
そのヤナギの葉をヤナギルリハムシがむしゃむしゃと食べていた。「ハムシ(Leaf Beetle)」の名のとおり、ヤナギルリハムシはヤナギの葉が大好物だ。成虫だけでなく幼虫も旺盛に葉を食べる。
ヤナギルリハムシが食害しているヤナギの木へと降り立った日本最大級のテントウムシの一種、カメノコテントウは、ヤナギルリハムシの幼虫を発見すると、がぶりと噛みついた。この幼虫は、カメノコテントウの大好物。逆に言えば、ヤナギルリハムシの幼虫にとってカメノコテントウは天敵だ。

なぜ好物を見つけられるのか。そこには意外なコミュニケーションが存在していた。(c)NHK
カメノコテントウは多いときで1日に100匹以上のヤナギルリハムシの幼虫を見つけ出し、食べてしまう。この肉食性昆虫が植食性昆虫を襲って食べるという、よくある関係。しかし、一度立ち止まってほしい。そこには不思議な謎が潜んでいる。
実はテントウムシもそうなのだが、複眼を持つ昆虫の視力はかなり悪いとされている。視力は、せいぜい0.01ほど(分解能をもとにした推定値)と考えられる。数メートル先の物体を判別するのも難しいはずだ。では、テントウムシは体長わずか数ミリメートル程度の小さなヤナギルリハムシの幼虫を一体どのように見つけ出したのか?
その謎を解き明かしたのが、京都大学名誉教授の高林純示さん(※高林さんの“高”ははしご高)と近畿大学農学部講師の米谷衣代さんだ。
「われわれ人間にとっても、草木をかき分け、特定の種類の小さな虫を見つけるのは至難の業です。広い砂浜に落とした1個の真珠を探すくらいの難しさと言えるでしょうか。それなのに肉食性の昆虫、つまり昆虫を食べる昆虫は、隠れるようにして葉っぱを食べる植食性の昆虫をうまい具合に見つけ出している。どうしてそんなことが可能なのかというのが長いあいだの謎だったのです」(高林さん)
高林さんは1988年から90年までのオランダ留学中、リママメ、ナミハダニ、チリカブリダニを対象に研究した。リママメはマメ科の植物で、その葉をナミハダニが旺盛に食べる一方、そのナミハダニをチリカブリダニが好んで食べる。リママメを食べるナミハダニをチリカブリダニが食べるわけだ。高林さんが取り組んだのは、この関係の中で、どのようにチリカブリダニがナミハダニを見つけているのかという問題だ。高林さんらは巧みな実験により、ナミハダニに食べられたリママメ葉が揮発性の化学物質を放出し、チリカブリダニがその匂いに引き寄せられることを突き止めた。