2023.03.20
# 細胞 # 遺伝子

ダーウィンは見られなかった、ワクワクが止まらない多様な生物の共存が生み出す進化に迫った

超・進化論(10)

NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、第64回科学技術映像祭において内閣総理大臣賞(自然・くらし部門)を受賞!
生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている! NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。
書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』では、なぜ生き物がこのように多様なのか、なぜ共存しているのか、その本当の意味とは何か、により迫っていく。その秘密のカギが生き物たちをつなぐ「見えない糸」。
本書の主人公は植物・昆虫・微生物たちと一見地味だが、その生存戦略はまさに地球の主人公と思えるほどだ。ダーウィンの進化論の時代には解明されていなかった、人智を超える生き物の進化の奇跡を、番組制作ディレクター白川裕之が語る。
前半記事<NHKスペシャル「超・進化論」ディレクターが見た、人間が見えていない“新たな世界”>はこちらから。

生き物同士をつなぐ、見えない糸の存在

私たち取材班は、そうして見えてきた新たな世界を、従来のような人間中心の目線から脱却して、“生き物たちの目線”で切り取ることに注力した。生き物たちは、この世界を一体どのように捉えて、生きているのか。生き物たちが感じている世界に近づきたいというアプローチだ。

さらに、ダーウィンの時代にはまだ確立されていなかった「生態系」という概念=多様な生き物同士の複雑な関係性についても、最新のテクノロジーを駆使した生態学の進歩によって、劇的に理解が進んだ。取材を進めると、ワクワクと心が躍るような、そして常識が180度くつがえされるような驚きの研究成果が、次々とわかってきた。

植物がまるで“おしゃべり”するように、周りの生き物とコミュニケーションをとっているという、おとぎ話のような事実。

リンゴは葉をハダニに食べられると、化学物質を使い肉食性のダニを呼び寄せハダニを退治してもらう。化学物質はイメージCG 。(c)NHK

森の中で、光や栄養分をめぐって競争をしているとばかり思われてきた植物たちが、地下のネットワークでつながって物質のやりとりをしているという事実。

アリの群れの中には、アリ以外のなんと100種以上ものさまざまな生き物が暮らしているという事実。

そして、目に見えない小さな微生物たちは、植物や動物などあらゆる生物の中に棲み着くことで、宿主の体の一部を代わりに作ったり、栄養の吸収を助けたりと生存を助けているばかりか、相手の“気分”や“性格”を変えて行動をコントロールしているという、まるでSFのような事実。

わかってきたのは、生き物同士をつなぐ、見えない糸の存在だ。すべての生き物は、別の生き物と相互に影響をおよぼし合いながら、生きている。競争だけではない、弱肉強食だけではない、生き物同士が種を超えて、思いも寄らないつながりを持って、支え合って生きている。そうした種を超えた深いつながりこそが、生き物たちのかけがえのない能力を生み出す進化の原動力であるという新しい世界観が浮かび上がってきている。

ミツバアリが新たな地で女王として一家を作るため、アリノタカラ1匹を口にくわえ飛び立つところ。
おたがいがいないと生きていけない関係なのだ。(c)NHK

この生き物同士を見えない糸でつなぐネットワークシステムは、「進化論」とは別の次元で、多様な生命が共存する生態系の本質的な土台を成していると考えることができる。つまり、「進化論」とは別の次元に、多様な生き物たちの共存を促すような“まだ見ぬもうひとつのルール”が存在している可能性があるのだ。

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大