生命誕生から40億年のあいだに出来上がった生き物の隠れたネットワークやスーパーパワーが、最先端科学で次々と解明されている! NHKスペシャル シリーズ「超・進化論」では、5年以上の歳月をかけて植物・昆虫・微生物を取材。そこには常識を180度くつがえすような進化の原動力があった。
書籍化された『超・進化論 生命40億年 地球のルールに迫る』では、種数で生物界を圧倒する「昆虫」の謎が解き明かされる。
私たち取材班が注目したのは、昆虫の驚異的な適応能力。彼らはさまざまな能力を身につけ、地球上のあらゆる場所に適応してきた。たとえば、昆虫の9割以上が飛ぶことができ、8割以上が幼虫からサナギ、成虫へと完全変態をする。さらに他の生物の食べ物になったり、重要な花粉の運び屋でもある。研究者たちは「昆虫は人間がいなくても生きていけるが、人間は昆虫がいなければ生きていけない」と語る。
今回は、長年の謎がようやく解明された“超ハイテク”&“型破り”な昆虫の飛翔のメカニズムを徹底解説する。
【植物編第1回】<「今、私食べられている!」植物にも動物と同じ“感覚”があった! 可視化された事実が凄すぎた!>はこちらから。
*NHKスペシャル「超・進化論 第1集 植物からのメッセージ ~地球を彩る驚異の世界~」は、
鳥ではありえない昆虫の飛翔の秘密が明らかに
葉っぱや枝から昆虫が今にも飛び立とうとする場面を目にする機会があれば、彼らの脚に注目してほしい。
右、左、右、左、……と脚を交互に上げ下げしていることに気づくはずだ。これは飛び立つ前のしぐさ。足場を確認し、安全だとわかれば、彼らは羽ばたく。
昆虫の9割以上が空を飛ぶ。鳥と異なり、昆虫は、翅も、飛翔力の大きさも、飛び方も、多種多様だ。飛ぶことによって昆虫が生息地を広げ、あらゆる空間に適応してきたのは間違いない。

飛べることで安全に食べ物や棲処が 得られるようになり、種類も数も増やしていく。(c)NHK
細長い翅を持ち、広々とした環境に適応したトンボはスピード重視で、高速飛行で獲物を捕まえる。甲虫は、もともと前部と後部に各2枚の翅を持ち、そのうち前部の2枚の翅を、もとが翅だったとは思えないような硬い「鎧」に変えた。その結果、枝、幹、土などの周りの環境から翅を守れるようになった。飛ぶときは、鎧の下に収められた後部の1対の薄い翅を広げる。
小さな翅を持つハチはこみ入った狭い場所に適応したと言える。小回りがきくおかげで、花のあいだを縫って飛び、花粉や蜜を集めることができる。
近年の研究によれば、昆虫は特殊なテクニックを獲得し、鳥や飛行機とはまったく異なる独自の方法で飛んでいるという。
イギリス・王立獣医大学教授(比較生体力学)のリチャード・ボンフリーさんは、昆虫の飛翔の研究を30年続けてきた。
体の大きさに対する割合で比べると、ハチの翅は、鳥の翼よりかなり小さい。

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もしハチが鳥と同じ飛び方をしたら、体が重すぎて落ちてしまうことになる。これは「マルハナバチのパラドックス」(ハチは実際に飛んでいるにもかかわらず、飛行機の飛び方の理論上は、ハチは自分の体重を支えるだけの飛ぶ力を発生できない)と呼ばれ、長いあいだ、航空力学者たちの頭を悩ませてきた。